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「じゃあ国境に向かう三人は、これをはおってください」
商人がよく身につけているマントを、ノアが俺とトラビス、ゼノに差し出す。
俺達がマントをはおるのを見て、ノアが苦笑する。
「なんか…似合わないですね。顔が怖い。人がいる所では商人ぽい顔をしてくださいよ?」
「商人ぽい…顔?」
トラビスが顔を触りながら呟いている。
「おまえはそのデカい身体を丸めていれば大丈夫だ。俺は…フィル様のそばにいる」
「おい、どういう意味だ」
俺は睨んでくるトラビスを無視して荷車に乗ると、先に中に寝かせていたフィル様を抱いて膝に乗せた。
フィル様にはコートを着せ毛皮で身体を包んでいるが、それでも寒くないだろうかと心配になる。荷車には布が貼られた簡易的な屋根と壁があり、少しの風や雨は防げそうだが寒い。動かないでいると身体の芯から凍えそうだ。
俺はフィル様を胸に寄せて、しっかりと抱きしめた。
荷車の中の俺とフィル様の周りには、外から覗いた時に見えないように綿が大量に入った大きな袋が、数個置かれている。これらの綿は、帰りにノアが売りさばくらしい。
乗り降りするためにめくり上げていた箇所から、トラビスが顔を覗かせた。
「ラズール、そろそろ出発するが大丈夫か?」
「ああ、多少飛ばしてくれても構わない」
「わかった。ではゼノ殿」
トラビスが離れた後ろに、第二王子が立っていた。まっすぐにこちらを、フィル様を見つめている。
俺はゆっくりと右手を上げる。そして第二王子に微笑むと、勢いよく右手を振り、めくり上がっていた布を落として第二王子の視界を遮断した。
「リアム王子…あなたはもう、フィル様と会うことはない。もしも会う時があるとすれば、あなたを敵と信じるフィル様に殺される時だ」
そう冷たく言い放ち、視線をフィル様に落とす。
フィル様は、まだ微熱が続き意識が戻っていない。時おり苦しそうな顔をして涙を流される。左腕が痛いのか、辛い夢を見ているのか。その様子を見る俺の胸も苦しくてたまらない。
思えば、俺はフィル様が生まれた時から、フィル様が苦しむ様をずっと見てきた。その様を見るたびに、俺が幸せに、笑顔にしてあげたいと願っていた。
今度こそ、俺がフィル様を幸せにする。第二王子との想い出など不要だ。
バイロン国との関係も最悪なものとなった。次は様子見などではなく、本格的な戦が起こるかもしれない。もしそうなれば、その時に第二王子が攻めてきたならば、フィル様の目の前で、俺が殺してやろう。
「フィル様…もう何も心配はいりません。今までのように、これからも俺がずっと、あなたを守ります」
俺はフィル様に顔を寄せると、再びあの呪文を囁き始めた。
商人がよく身につけているマントを、ノアが俺とトラビス、ゼノに差し出す。
俺達がマントをはおるのを見て、ノアが苦笑する。
「なんか…似合わないですね。顔が怖い。人がいる所では商人ぽい顔をしてくださいよ?」
「商人ぽい…顔?」
トラビスが顔を触りながら呟いている。
「おまえはそのデカい身体を丸めていれば大丈夫だ。俺は…フィル様のそばにいる」
「おい、どういう意味だ」
俺は睨んでくるトラビスを無視して荷車に乗ると、先に中に寝かせていたフィル様を抱いて膝に乗せた。
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俺はフィル様を胸に寄せて、しっかりと抱きしめた。
荷車の中の俺とフィル様の周りには、外から覗いた時に見えないように綿が大量に入った大きな袋が、数個置かれている。これらの綿は、帰りにノアが売りさばくらしい。
乗り降りするためにめくり上げていた箇所から、トラビスが顔を覗かせた。
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「ああ、多少飛ばしてくれても構わない」
「わかった。ではゼノ殿」
トラビスが離れた後ろに、第二王子が立っていた。まっすぐにこちらを、フィル様を見つめている。
俺はゆっくりと右手を上げる。そして第二王子に微笑むと、勢いよく右手を振り、めくり上がっていた布を落として第二王子の視界を遮断した。
「リアム王子…あなたはもう、フィル様と会うことはない。もしも会う時があるとすれば、あなたを敵と信じるフィル様に殺される時だ」
そう冷たく言い放ち、視線をフィル様に落とす。
フィル様は、まだ微熱が続き意識が戻っていない。時おり苦しそうな顔をして涙を流される。左腕が痛いのか、辛い夢を見ているのか。その様子を見る俺の胸も苦しくてたまらない。
思えば、俺はフィル様が生まれた時から、フィル様が苦しむ様をずっと見てきた。その様を見るたびに、俺が幸せに、笑顔にしてあげたいと願っていた。
今度こそ、俺がフィル様を幸せにする。第二王子との想い出など不要だ。
バイロン国との関係も最悪なものとなった。次は様子見などではなく、本格的な戦が起こるかもしれない。もしそうなれば、その時に第二王子が攻めてきたならば、フィル様の目の前で、俺が殺してやろう。
「フィル様…もう何も心配はいりません。今までのように、これからも俺がずっと、あなたを守ります」
俺はフィル様に顔を寄せると、再びあの呪文を囁き始めた。
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