銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 無意識に前へ出た俺を、トラビスが後ろから抱きとめた。
 第二王子とフィル様を見ていたゼノとジルが、剣の柄を掴んでカチャカチャと鳴らす俺に振り向き、素早く第二王子の前に立つ。

「そこをのけ」
「のかぬ。ラズール殿、ここは民の家だ。抜いてはならない」
「ならばその王子を外に出せ」
「それもならぬ。他国の者といえども、リアム様に無礼なマネは許されない」
「王子はフィル様に無礼を働いてるではないか」
「これは無礼ではない。二人は想いあっているのだから」
「そんな感情は、フィル様はもう持ってはいない」
「なぜそのようなことを言う」
「なぜ?第二王子があのようなことをしておいて、まだ想われてると信じる方がおかしい」
「おいたわしく思うが、あれはフィル様がリアム様を想ってされたこと。それだけフィル様の想いが強いということでは?」
「この先もそうとは限らぬ」
「ラズール!落ち着けって。今は無事にフィル様を連れて帰ることだけに集中しろ」

 ゼノと言い合いながらも、俺はフィル様と第二王子を見ていた。
 第二王子は何度もフィル様にキスをし、抱きしめていた。ノアもその様子をずっと見ている。
 くそっ腹の立つ!なぜ誰も止めないのか。なぜフィル様を殺しかけた男の好きにさせているのか。
 俺は目を閉じ大きく息を吐き出すと、トラビスの手を振り払い叫んだ。

「第二王子!早くここを出ねば、第一王子に捕まりフィル様が殺されてしまうかもしれません。今すぐに出発しますので、フィル様をこちらへ…!」
「ああ…」

 最後にもう一度キスをして、ようやく第二王子が立ち上った。
 トラビスが慌てて傍に行き、第二王子からフィル様を受け取る。
 俺は聞こえないように舌打ちをすると、どうすればいいかノアに聞こうとした。
 その前にゼノが口を開く。

「ノア、家の裏に案内してくれないか?手紙にも書いたが、ここからは俺とフィル様の家来の二人が行く。リアム様とジルは先に王城へと戻る」
「はい、わかってます。リアム様も体調が悪そうだけど、大丈夫ですか?」

 俺はノアは優しいのだなと思ったが、自国の王子を心配するのは当たり前か。誰もフィル様を心配しないイヴァルの者が冷たいのだな。

「リアム様は疲れがたまっていらっしゃるのだ。だが大丈夫だ」

「そうですか…」と言いながら、ノアが入ってきた扉とは別の、家の奥にある扉から外へ出る。そこには小さな荷車があり、それを引く馬がいた。
 そういうことかと俺は納得する。荷車にフィル様を寝かせ、俺達は商人のフリをしてこの国を出る算段か。
 俺が理解したのを悟ったようで、ゼノがこちらを見て深く頷いた。

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