銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

文字の大きさ
上 下
241 / 451

10

しおりを挟む
 二日間城に滞在した。薬のおかげでフィル様の顔色が少しよくなってきたので、いよいよ国に戻るために動き出した。
 医師に礼を言って、まだ夜も明けきらぬ暗い中を出発する。
 ゼノが話してくれた脱出方法は、王城の騎士が知らない道を進むというものだった。そんな簡単な方法でうまく逃げられるのかと不安でたまらなかったが、ゼノの言うことを聞く他ない。
 城を出て一つの小さな村を通り過ぎ、次の街も通り過ぎた先にある森の中で、ゼノが馬の足を止める。ゼノの後ろにいる第二王子も、俺とトラビスの後ろから付いてきたジルも止まる。
 俺は腕の中のフィル様を抱きしめて「なんだ?」と低く聞く。
 ゼノが馬を降りて俺の傍に来た。

「ラズール殿、あそこに小さな家が見えるだろう。あの家に住む少年は、フィル様の友達だそうだ。彼に協力してもらって国を出る」
「は?王城の騎士が知らない道を行くというのは」
「ああ、あれはウソだ。医師を騙すための」
「なに?あの医師は素晴らしい人物ではなかったのか?」
「確かに腕はいい。志も素晴らしい。だが金に汚くてな。俺達が城を出た直後に、第一王子に報せるために城を飛び出していったよ」
「…ジル殿が遅れて来たのは、医師を尾行していたからか」
「そうだ」

 俺はフィル様を抱く腕に力を込める。
 人とは信頼できないものだ。どれほどの優れた人物でも、何かしらの欠点がある。俺がこの世で信頼できるのはフィル様だけだ。
「それで?」とゼノに話の先を促す。

「あの家に住む少年はノアと言って、フィル様がバイロン国で腹を刺された時に助けてくれたそうだ」
「ああ…おまえがやったあの時のことか」

 チラリとトラビスに目をやると、「深く反省している」と言いながらトラビスも馬から降りてきた。

「ノアには先に手紙を届けて話してある。ノアが合流した後は、俺だけが国境までついて行く。リアム様が一緒だと目立つので、ジルと共に王城に戻ってもらう」
「そうか。それがいい。いつ俺が剣を抜くかわから…」
「ラズール!それ以上は言うなっ、不敬だぞ」
「なぜ?俺の主はフィル様だけだ」
「ラズール殿、もう少しの辛抱を。あの家の前に馬を並べると目立つ。ここに置いて行くぞ」
「わかった」

 俺はフィル様に振動を与えぬよう、注意を払って馬を降りる。馬の手綱を木に縛りつけようとしていると、第二王子が傍に来た。そして「フィーを…」と腕を出してくる。
 絶対に渡したくなかったが、相手は他国の王子。散々失礼な態度をとってはきたが、ここで無視をしてフィル様を返さないと態度を変えられては困る。
 俺は渋々とフィル様を第二王子の腕に預けた。
 第二王子はフィル様を抱きかかえると、愛おしそうに目を細めて頬を寄せる。
 そのような顔をするほど好きなら、なぜ頭を打ったくらいで忘れたのだとまた腹が立った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...