銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 トラビスが持ってきた料理を食べてもらおうとフィル様に声をかけて肩を揺らしたが、目を覚まさない。仕方なく上半身を起こして支え、スープを少しづつ口の中に入れると飲んでくれた。でもこれだけでは体力がつかない。
 俺はトラビスに医師の所へ行き、食べ物の代わりに栄養や体力がつく薬があればもらって来てほしいと頼んだ。
 再びトラビスが出て行った直後に、第二王子とゼノが来た。 
 追い返したかったが、ここはバイロン国だ。フィル様が回復されるまでは無下にはできない。俺は渋々と扉を開けて、二人を中に入れた。
 第二王子は死にそうな顔をしていた。フラフラとベッドに近づき、フィル様の顔を見るなり「すまないっ」と叫んでフィル様に覆いかぶさった。
 俺は咄嗟に足を踏み出し剣の柄を掴んだが、ゼノに腕を引かれて止められた。

「少しだけ二人きりにしてやってほしい」
「断る」
「頼む。フィル様が国に戻られたら、またしばらく会えなくなる。リアム様がフィル様と過ごされることを許してやってほしい」
「二人きりの時にまたフィル様を傷つけないか?」
「絶対にない。だから…」
「わかった。トラビスが戻ってくるまでの間だけだ」
「すまない」

 ゼノが俺に頭を下げる。
 俺は第二王子を睨みながら、足音を立てて部屋を出た。
 ゼノが静かに扉を閉めて「こちらへ」と俺を隣の部屋へと招く。
 扉の前で待つつもりだった俺は「ここにいる」と首を振った。

「少しだけこちらへ。あなたがたを無事に国に戻す相談をしたい」
「しかし」
「リアム様なら大丈夫だ。二度とフィル様を傷つけることはない。とても落ち込まれて、ご自分の左手も斬ろうとされたので慌てて止めたくらいだ」
「ふん、止めなくてもよいものを…」
「本当に申しわけない」 
「…あなたが謝ることはない。フィル様の手当てをすぐにしてくれたこと、感謝する」
「いや…フィル様のことだけではない。イヴァルの兵達のこと…王城から逃げ出せるよう手配を進めていたのだが、間に合わなかった」
「ゼノ殿…」

 この第二王子の側近のゼノという男。ゼノはとても誠実な男とみえる。トラビスから聞いた話では、ずっとフィル様を守ってくれていたらしい。ゼノのことは嫌いではない。
 俺はゼノの後について隣の部屋に入った。中にはもう一人、確かジルという名の騎士がいた。
 外を眺めていたジルは、俺に気づくと傍に来て挨拶をした。

「リアム様の叔父上に仕えるジルと言います。あなたがラズール殿ですか?」
「はい。フィル様の側近、ラズールです」
「なるほど…やはり第一王子は嘘を仰られていたのだな。俺はもう第一王子を信用しない」
「どういうことです?」

 俺は眉間にシワを寄せ、順番にゼノとジルを見た。
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