銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 僕は剣を下ろした。
 支えを失って、リアムの剣が落ちてくる。
 僕の額に当たる寸前で、リアムが慌てて剣を引いた。

「急に下ろすな!危うく斬るところだったぞ」
「だから真剣に斬り合おうって言ってるのに…」

 思わず泣きそうになった。もうどうすればいいのかわからない。このままリアムの馬を奪って逃げてしまおうか。…そうだ、それが一番いい。
 道の端で大人しく待っている馬の方へ僕が走り出そうとしたその時。
「リアム様!ご無事ですかっ?」と大きな声がした。
 リアムの馬の近くに、バイロン国の騎士がいる。いつ来たのか?雨が地面を打つ音で、全く気配に気づけなかった。
 フードをかぶってわかりにくいが、見たことのある顔だ。トラビスに担がれて逃げるときに、目が合った男だ。確か名前は…。

「ジル!追いかけてきたのかっ」
「そうです。リアム様お一人で追跡されるなど危険です!」

 そうだ、ジルだ。僕のことを気にしていた。不審に思っていたはずだ。
 ジルはリアムの前に来ると、剣を抜いて僕を凝視した。

「リアム様…この者は?ゼノが連れていた捕虜と顔が似ているが、髪が違う…」
「ゼノが連れていたフィルだ。髪は染めていたんだ。雨で染料が落ちて本来の銀髪が現れた。雨に濡れてもこの美しさだ。きっと陽の光の下で見る銀髪は、さぞ美しいだろうな」
「染めていたのか。銀髪といえば王族か王族の血縁者の証。決して逃がしてはなりません」
「わかっている。だが怪我をさせるな。フィルは俺が連れていく。兄上には絶対に渡さない」
「それは…連れ帰って公の場で処刑をするということですね?」
「は?なにを言ってる!」

 僕は剣を握りしめる手に力を込めた。
 今なんて言ったの?処刑?バイロン国民の前で?僕をさらし者にするって?
 そんなこと、断じてさせてはならない。イヴァル帝国の威厳が落ちてしまう。そんなことになるくらいなら、自分で命を絶つ方がいい。
 僕はゆっくりと左手に力を込める。リアムがジルの胸ぐらを掴んで問い詰めている間に、魔法の力をためる。
 所詮、リアムとゼノ以外は僕のことを知らない。ただのイヴァル兵で、殺すべき相手なんだ。それを生かして連れて来たあげく、第一王子が襲われゼノを傷つけられたのだから、見せしめにしないと怒りがおさまらないのだろう。
 僕が左手を上げようと動かしたその時、ジルが叫んだ。

「リアム様!敵に情けをかけてはなりません!この者達に斬られたゼノが、リアム様が宿を出てすぐに息を引き取ったのですよ!」
「なんだと?」

「…うそだ」と呟き、僕は震えた。

 
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