銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 目と鼻の奥が熱くなり、意図していないのに泣きそうになる。
 その時、いきなりリアムに抱きしめられた。どういうことかわからずに僕の身体が固まる。しかしすぐに離れようとリアムの胸を押した。

「あのっ…放して」
「ダメだ。放さない。おまえが辛そうな顔をしてるから、放さない」
「どうし…て…」

 どうして?僕のことを覚えていないのに、どうしてこんなことをするの?僕のことが気になるの?だったら早く僕を思い出して。思い出して迎えに来て…っ。

「泣いてるのか?」
「ちが…う」
「よくわからないが、俺のせいだとしたら…すまない」
「ううっ…」

 僕はリアムの胸に顔を押しつけた。泣き顔を見られないように強く押しつけて、声を殺して泣いた。
 リアムが僕の髪を、背中を、優しく撫でる。撫でてあやすように小さくトントンと叩く。
 愛しい人の匂いと温もりと「大丈夫だ」と囁く声に、僕の気持ちがだんだんと落ち着き涙が止まった。
 涙が止まると急に恥ずかしくなってきて、僕は慌ててリアムから離れようとする。
 だけどリアムが強く僕の肩を掴んで放してくれない。

「あの…泣いてしまってごめんなさい。もう大丈夫ですので、放してください」
「無理だな」
「え…?」
「なあ、ゼノは本当におまえを部下にしようとしてるのか?恋人じゃなくて?」
「え?ええっ!違います!ゼノ…殿はそんな風には微塵も思ってませんっ」
「まことか?でもなぁ、あいつが誰かを連れて帰るなんて初めてなんだよな。しかもこんなにきれいでかわいい子だろ。怪しいよなぁ」

 ゼノが僕を連れているのは、僕がイヴァル帝国の王で、リアムの恋人だからだ。やむを得ず連れて行かなければならなくなっただけで、特に深い意味はないのに。
 僕はリアムを見上げて言う。

「ゼノ殿は、リアム…様の忠実な部下だと聞いてます。その…リアム様に隠しごとはしないと思います」
「まあそうだな。ゼノが俺に頼みごとをするのが珍しいと思い、おまえを部下にしたいという申し出を聞いてやったんだ。だが…気が変わった」
「…え?」

 僕は一気に青ざめる。
 リアムに触れられて喜んでいる場合じゃなかった。油断した。僕は今、リアムの恋人じゃない。リアムからすれば敵国の捕虜だ。僕を不審に思い、ゼノから離して処刑するつもりかもしれない。
 いやだ。なにもできないまま、今ここで死ぬわけにはいかない。
 僕は暴れた。めちゃくちゃにリアムの胸を叩き、驚いたリアムの腕が緩んだすきに逃げ出す。だけどすぐに捕まり、両手をひとまとめに掴まれて大木に背中ごと押しつけられた。
 リアムが鋭い目つきで僕に顔を寄せる。

「なぜ逃げる」
「僕をっ…殺すんだろ!だから逃げたんだっ。僕はまだ死ねない…こんな所で死にたくないっ」
「なにを言ってる」
「だって…っ、気が変わったって言ったじゃないか!敵国の捕虜なんて邪魔なんだろっ!僕だって捕まりたくて捕まったわけじゃないのに…」

 僕はなにを言ってるんだろう。頭の中がぐちゃぐちゃだ。とにかくリアムに僕のことを思い出してもらえないまま、死ぬのが嫌なんだ。

「バカめ…早とちりをするな」
「なに…が…んっ」

 涙で潤む視界でリアムを見た。
 リアムは目を細めると、いきなり僕にキスをした。
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