銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「大丈夫ですか?まさかリアム様が興味を持たれるとは…。いや、違いますね、俺が迂闊でした。片や記憶がなく、片や変装をしていても、あなた方は必ず惹かれ合う運命なのかもしれません」
「そう…かな」

「はっ!」と吐き捨てながらトラビスが立って傍に来る。凶悪な顔をしてリアムが去った方角を見ている。

「運命?そんなものはありません。それにフィル様が正体を隠しているとはいえ、あの態度は失礼だっ」
「そう怒るな。リアム様は用心深いお方だ。いつもなら不用心に他人に近づいたりしない。それを警戒心すら持たずにフィル様に近づいて来たということは、惹かれるものを感じているのだろう」
「それは浮気者ということにならないか」

 トラビスが今度はゼノを睨む。

「ならない。フィル様に対してだけだ。ところでフィル様」
「なに」
「フィル様が近くにいることで、リアム様の記憶が戻るかもしれません。なるべくフィル様とリアム様がお二人で話ができるよう、俺も協力します」
「ゼノ…ありがとう」

 僕はゼノを見上げて礼を言う。
 ゼノは優秀でいい人だ。僕とリアムのことも、最初から賛成してくれている。
 ゼノがもう一度もらってきたパンを齧りながら、僕は王城で療養中のラズールのことを思った。
 ラズールは、僕とリアムのことを反対している。どうしてかはわからないけど、リアムのことを好意的には思っていないようだ。ラズールは僕のことを好きだと言った。家族とは違う意味で。だから僕に愛する人ができることが許せないのだろうか。リアムじゃなかったとしても許せないのだろうか。
 僕はラズールを大切な家族だと思っている。だからラズールには認めてほしいんだ…僕とリアムのことを。
 
「水をどうぞ。喉に詰まりますよ」

 いきなりゼノが目の前に水が入ったコップを差し出してきた。
 僕は頷いて受け取り水を飲む。水とともにパンを飲み込むと、はあっ…と息を吐いた。

「ありがとう」
「このパンは日持ちさせるために固くしてますからね。気をつけて食べてください」
「うん」
「ぼんやりとなさってますが、疲れましたか?まだ半日移動しなければなりません。ですが俺だけ離脱することも可能です」

 僕はコップを両手に持ったままゼノを見つめ、ゼノの遠く後ろにいるリアムを見る。
 リアムは大きな木の幹にもたれて腕を組み目を閉じている。
 リアムも疲れているのだろう。リアムの疲れた身体を抱きしめてあげたいな。僕もリアムに抱きしめてもらえたら、すぐに元気になるのにな。

「フィル様?」
「大丈夫だよ。少し眠いだけ。それに今以上に怪しまれる行動はしたくないから、皆と一緒に行くよ」
「かしこまりました」

 ゼノが目だけを下げて立ち上がる。そして馬を繋いでいる所へ向かう。
 トラビスも「失礼を」と目礼をして、ゼノの後を追いかけた。
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