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僕は正面からトラビスを見つめた。
トラビスがたじろいで、少しだけ頭を後ろに引く。
「トラビス、何度も言ってるけど僕の言うことが聞けないなら帰って。今からでもいい。おまえ一人だけなら、たやすく戻れるだろう?」
「帰りません。あなたの命に従います。しかし御身が心配ですので、言うことは言わせてもらいます」
「おまえ…本当に嫌なやつだ。昔っからそう」
トラビスが僕に向かって手を伸ばしかけ、その手を固く握りしめる。
「昔のことは申しわけありません。俺は悔しかったのです。俺よりも小さな身体の女の子に負けたことが…」
「男だけどね。対戦していてわからなかった?」
「わかりませんよ。細くてきれいな顔で、輝く銀髪をしていましたから」
「そんなこと思ってたの、ラズールとトラビスくらいだよ。僕は嫌われていたんだもの」
「違いますよ。俺の周りの者は、あなたに話しかけたかったけど緊張して話しかけられなかったんですよ」
「ウソだ」
「ウソではありません。俺はあなたと対戦した後に、同年代の者たちにひどく責められましたから。きれいな顔や身体に傷をつけたらどうするんだ!って」
「その割に、おまえは何度も突っかかってきたじゃないか」
「だから悔しかったんですよ。俺は負けず嫌いなので」
「ふーん。だけど王族と張り合うなんてトラビスはどうかしている」
「そうです。俺はおかしいんです」
「ははっ!自分で認めるんだ?」
「…はい」
トラビスが一瞬驚いた顔をして、眩しそうに目を細める。あまりにも見てくるから居心地が悪くなり、僕は席を立って窓に近づいた。
そっと外を覗くと、もう誰もいなかった。
「あ…みんな部屋に入ったのかな」
「そのようですね。しかし周りがバイロン兵ばかりだと動きにくい」
僕はビクッと肩を揺らす。
椅子に座ってるはずのトラビスが、もう傍にいて驚いてしまった。こんな調子で二人きりでリアムと会えるだろうかと、バイロン兵よりもトラビスの方がやっかいだと思ってしまう。
「おまえはバイロンの騎士の格好をしてるから、動けるだろう」
「顔でバレてしまいます」
「これだけの人数がいるんだ。大丈夫じゃないか?」
「でも俺は、将軍としての風格がありますから」
「…大丈夫だと思う」
「そうですかね」
将軍としての風格はあるけど、まだ若いせいもあり落ち着いた風には見られない。だからうまく紛れ込めると思うよ…とは口に出しては言わないけど。
その後席に戻って食事を始めるとすぐに、ゼノが戻ってきた。三人で食事をして、湯で身体を拭く。着替え終わると、疲れた僕はすぐに寝た。
このような大勢が泊まる宿でも、ゼノくらいの身分の者は風呂に入れる。だから風呂を勧められたけど断った。髪を濡らすと色が取れてしまうせいもあるけど、僕の身体には恐ろしい痣がある。もしも誰かに見られでもしたら、恐れられてすぐに斬られてしまうかもしれないのだから。
トラビスがたじろいで、少しだけ頭を後ろに引く。
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「…はい」
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