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戻ってきたゼノは、バイロン国の黒い軍服を持っていた。トラビスがそれに着替えている間に、ゼノが僕の髪を茶色に染める。
腰掛けるのにちょうど良い岩に座った僕の髪に触れながら、ゼノが口を開く。
「バイロン国で入手しようと思っていた植物が、ここにもあってよかったです。やはり変装してから国境を越える方が安全ですからね」
「こんな植物初めて見た…。きれいに染まるんだね」
「はい。それにこれは髪がサラサラになる効果もあります。ただ肌に合わない者いるので…。皮膚が痛いとか気分が悪いとかはないですか?」
「うん、大丈夫」
「それならよかったです。しかしフィル様はどのような髪色でもお似合いだ」
「そうかな?ありが…」
「ふんっ、そうか?フィル様にはやはり輝くような銀髪が似合う。この世界で最も尊いお方なのだからな」
「トラビス、なにを言ってるの。おかしなことを言うな」
着替え終わったトラビスが、腕を組んでこちらを見ている。凛々しい眉の間にシワを刻んで。
呪われた子である僕が尊いなんてことあるわけないだろうと僕はため息をついた。
「できましたよ」とゼノが髪から手を離す。そして魔法で小さな風を起こして湿った髪を乾かした。
「ここに鏡がないのが残念です。ぜひその姿を見てほしかった」
「変じゃない?」
「全く。ただ…」
「なに?」
「少し幼くなりましたね。可愛らしいです」
「…可愛らしい…」
僕は肩から前に垂れた茶色く染まった髪を指に巻きつけた。ゼノやノアと同じ髪の色だ。落ち着いた髪色で大人っぽく見えるかなと期待していたけど、逆だったのか。
でもこれで僕が目立つことはない。緑の瞳が珍しいけど、銀髪より数がいる。
僕は「ありがとう」とゼノに声をかけて立ち上がり、トラビスの正面に立った。
「どう?街で見かけたとして僕だとわかる?」
「…俺の中にフィル様は輝く銀髪をしているという先入観がありますから、すぐにはわからないかもしれません。しかしラズールは瞬時に気づくでしょうね」
「そうかなぁ」
「そうでしょう。あなたが変装して調査について行った時も、彼はすぐに気づいたそうではないですか」
「そうだった…あの時は顔まで隠してたのに」
「ラズールのあなたへの執着は恐ろしいですから」
「執着とは?」と染めるのに使った道具を片付けていたゼノが、手を止めて聞いてくる。
僕は少しだけ空を見て考え「ゼノがリアムを慕う気持ちと同じだよ」と答えた。
腰掛けるのにちょうど良い岩に座った僕の髪に触れながら、ゼノが口を開く。
「バイロン国で入手しようと思っていた植物が、ここにもあってよかったです。やはり変装してから国境を越える方が安全ですからね」
「こんな植物初めて見た…。きれいに染まるんだね」
「はい。それにこれは髪がサラサラになる効果もあります。ただ肌に合わない者いるので…。皮膚が痛いとか気分が悪いとかはないですか?」
「うん、大丈夫」
「それならよかったです。しかしフィル様はどのような髪色でもお似合いだ」
「そうかな?ありが…」
「ふんっ、そうか?フィル様にはやはり輝くような銀髪が似合う。この世界で最も尊いお方なのだからな」
「トラビス、なにを言ってるの。おかしなことを言うな」
着替え終わったトラビスが、腕を組んでこちらを見ている。凛々しい眉の間にシワを刻んで。
呪われた子である僕が尊いなんてことあるわけないだろうと僕はため息をついた。
「できましたよ」とゼノが髪から手を離す。そして魔法で小さな風を起こして湿った髪を乾かした。
「ここに鏡がないのが残念です。ぜひその姿を見てほしかった」
「変じゃない?」
「全く。ただ…」
「なに?」
「少し幼くなりましたね。可愛らしいです」
「…可愛らしい…」
僕は肩から前に垂れた茶色く染まった髪を指に巻きつけた。ゼノやノアと同じ髪の色だ。落ち着いた髪色で大人っぽく見えるかなと期待していたけど、逆だったのか。
でもこれで僕が目立つことはない。緑の瞳が珍しいけど、銀髪より数がいる。
僕は「ありがとう」とゼノに声をかけて立ち上がり、トラビスの正面に立った。
「どう?街で見かけたとして僕だとわかる?」
「…俺の中にフィル様は輝く銀髪をしているという先入観がありますから、すぐにはわからないかもしれません。しかしラズールは瞬時に気づくでしょうね」
「そうかなぁ」
「そうでしょう。あなたが変装して調査について行った時も、彼はすぐに気づいたそうではないですか」
「そうだった…あの時は顔まで隠してたのに」
「ラズールのあなたへの執着は恐ろしいですから」
「執着とは?」と染めるのに使った道具を片付けていたゼノが、手を止めて聞いてくる。
僕は少しだけ空を見て考え「ゼノがリアムを慕う気持ちと同じだよ」と答えた。
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