銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 僕は小さく息を吐く。

「トラビスまでいなくなったらイヴァル軍はどうするんだよ」
「レナードがいます。彼に俺とフィル様の二人で軍を離脱するので後を頼むと伝えます」
「それを知ったレナード?とやらも、君のように突進して来ないだろうな」
「レナードはそんなことしない」

 トラビスが強く答えたけど、ゼノが呆れた様子でトラビスを見ている。
 きっと内心、本当に将軍なのかと疑ってるかもしれない。
 僕もトラビスはよく将軍になれたなと思っている。子供の頃、僕のことを女だとわかっていて剣の勝負を挑んできたし。いつまでも僕を恨んでしつこいし。それに短気で勝手だ。しかしトラビスは剣と魔法の力が飛び抜けて強い。大宰相の息子という高い身分もある。それに統率力が優れているから、やはり将軍としては適切なのだろう。

「フィル様」
「うん?」

 考えごとをしながらトラビスを見ていると、ゼノに呼ばれた。
 僕はゼノと視線を合わせる。

「俺はこの戦に反対でしたので正直に話します。今回の戦は様子見です。なので間もなくバイロン国軍は撤退します。戦況も我らには不利な状況ですし」
「そうか。それならばイヴァル帝国軍も撤退する。これ以上死者や怪我人を出したくない」
「俺もそう思ってます」
「ゼノ、村人達を守ってくれてありがとう。あの結界はゼノが張ってくれたんだろう?」
「はい。戦で傷つくのはいつも民ですから。それに両国は長い間良好な関係を保っていたのに、一つの盗難事件が発端で戦を起こすのはやり過ぎです」
「うん…あっ。その盗難事件だけど…」
「はい」

「待ってください」とトラビスが僕の話をさえぎった。

「なに」
「ここで悠長に話してる時間はないはずです。移動しながら話しましょう」
「…そうだね」

 僕達はトラビスが壊した扉から外に出る。
 僕がゼノの馬に乗ってる間に、トラビスが口笛をふいて鷹を呼び、鷹の足に細く折りたたんだ紙をくくりつけて空に放した。

「トラビス、いつの間に書いてたの?」
「あなたがそこの…ゼノ殿と話している間に。というか待ってください。なぜそちらに乗っているのですか」
「え?だって僕はゼノに捕らわれてるから」
「しかもなぜ手に縄をかけられているのです!」
「捕虜なんだから縛ってないとおかしいだろ」
「きさま…今すぐにその縄をほどけ」
「トラビス!」

 トラビスが剣の柄を握りしめて近づいてくる。
 僕は後ろに座るゼノに目で謝ると、トラビスを睨みつけた。

「普通にバイロン国に入ったら僕達だけじゃなくゼノまで疑われてしまうだろ。ここは捕まったフリをするんだ。納得できないならついてこないで」
「ぐぬぅ…」

 腹を殴られでもしたかのような声を出して、トラビスが口を固く結ぶ。そしてゼノに向かってゆっくりと両腕を差し出した。

「…なにか?」
「俺の腕も縛れよ」
「いや、君にはバイロン兵のフリをしてもらう。君は将軍として顔がバレてるから。捕虜になったと知られたら即刻処刑されるよ?」
「…それはまずいな」
「だろう?国境の手前で俺の軍服に着替えてもらう。いいかな」
「わかった」

 トラビスは、まだ僕の腕の縄を見て渋い顔をしていたけど、小さく頷くとようやく馬に乗った。
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