銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 僕はもう一つ大事なことに気づいて振り返る。

「ゼノ」
「喋ると舌を噛みますよ」
「大丈夫。あのね、バイロン国に行く前にトラビスと話ができないかな?僕がいなくなったことがわかれば国境を越えてバイロン国を攻めかねないから」
「ああ、あの屈強そうな方。確かイヴァル帝国の将軍でしたか」
「そう。今は彼が僕の側近みたいなものだから、すごくピリピリしてるんだ」
「王城でお会いした時に、あなたの隣にいた側近は来てないのですか?」
「彼は…」

 そうだった。ラズールを治すための薬も手に入れたい。
 僕は身体ごと振り返ると、ゼノの服を掴んだ。

「あっ!危ないですよっ」
「ゼノ!雪斑症の薬って手に入れることができる?」
「雪斑症?できますが…。あれはバイロン国内でしか発生してないはずですよ?」
「採掘場の調査に行った帰りに、第一王子に襲われたんだ。あの時、第一王子が率いる部隊が来ただろう?」
「来ましたね。そういえば、その採掘場にあなたが現れたことも気になっていたのです。フィル様にはたくさん聞かなければならないことがあります」
「ちゃんと話すよ。僕もリアムのことを聞きたい」

 まっすぐにゼノの目を見つめると、ゼノが「はい」と頷いた。

「ラズールはね、第一王子の部隊から僕を庇って矢で射抜かれてしまった。その矢に毒と雪班症の菌が塗られていたんだ」
「なるほど、彼は今は動けないのか。来たくても来れなかったわけですね。それにクルト王子がやりそうなことです」

 ゼノが手綱を引いて馬の足をゆるめる。そして辺りを見回すと、目についた小屋に近づいた。

「あの小屋…誰も使ってないみたいですね。先ほど見張っていた俺の部下はもういません。ここに将軍を呼べますか」
「僕は鳥を扱えない」
「幸い、あなたの賢い愛馬が付いてきてますよ」
「えっ」

 驚いて首を巡らせた僕の目に、遠くから駆けてくるロロの姿が映った。

「ロロ!追いかけてきたの?」

 僕は叫んで馬から飛び下りた。
 ロロが勢いよく走ってきて目の前に止まる。そして僕の顔に鼻先を擦りつけた。

「皆の所へ戻らなきゃダメじゃないか。…でも、来てくれてありがとう」

 ふんっと鼻を鳴らして、更に顔を擦りつけてくる。
 僕はとても愛しくなって、何度も首を撫でた。

「ロロ、お願いがある。ここにトラビスを連れてきてくれる?」
「フィル様、これをここに括りつけてください」
「これは?」
「あなたを捕らえていると書きました。これを読めばトラビス…とやらは、怒ってすぐさま駆けつけて来るのでは?」
「すごく怒って来ると思う」

「それは恐ろしいですね」と笑いながら、ゼノがロロの鞍に細長い紙を括りつけた。

「ロロ、頼んだよ。怪我しないでね」

 僕はロロの首を抱きしめると、ロロの身体の周囲に結界を張る。
 ロロはわかったという風に首を縦に振り、戦場の方角へと走り出した。
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