銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 結界が張られた周辺を迂回して国境へと向かう。どんどんと戦いの場から離れていき、兵達の声が遠くなった頃、道から外れた場所で倒れている一人の騎士を見つけた。青の軍服を着たバイロン兵だ。
 僕は馬を下りて騎士に近づく。すぐ傍に膝をついて恐る恐る触れてみる。

「これはひどい…。脇腹を刺されたんだね」

 騎士の腹から血が流れて地面を黒く染めている。
 僕は刺された箇所に手のひらを当てると、魔法で傷口を塞ぎ始めた。
 傷口がひきつれて痛いのだろう。騎士の顔が苦痛に歪む。

「少しだけ我慢して。血が止まれば助かるから…」
「なにをしている」

 その時鋭い声と共に肩に重みを感じた。氷のように冷たい刃が、僕の頬に触れている。
 僕は顔を動かさず、治癒の魔法も止めずに答える。

「見てわからない?この人の傷口を塞いでるんだよ」
「なぜ敵兵に治癒の魔法を?そしてなぜここにいる?」
「人を捜してたんだ。そうしたら倒れてるこの人を見つけて助けてる」
「余計なことを…。おい、倒れてる彼を国境の向こうへ運べ。バイロン国側に医師が控えているから診てもらえ」
「かしこまりました」

 男が、僕の肩に剣を乗せたまま彼の部下に命じた。
 僕がかざしていた手を引くと、数人の騎士が倒れた騎士を担いで去って行った。だけど命じた男とまだ何人かの騎士が残っている。

「おまえ達は戦場に戻れ。怪我人がいればバイロン国に戻るように伝えろ」
「しかし…この不審者はどうするのですか?」
「俺が…捕まえる」
「先ほどの治癒の魔法を見ても、かなりの力を持っていると思われます!俺も残りますっ」
「いい。俺だけで充分だ。行け」
「しかし」
「おい、命令だぞ」
「…かしこまりました」

 残っている騎士の一人が、しつこく食い下がっていたが、男に厳しく言われて渋々と離れていく。
 そしてこの場に僕と男の二人きりになった。
 男はようやく剣を下ろして鞘におさめる。そして大きく息を吐き出した。

「なにをしてるのです。俺は早く戦場から離れるように言いましたよね?」
「言った…」
「しかもお一人で動くなんて無謀すぎる。それにあなたは素直な方だと思ってましたのに…意外と我儘だ」
「そうだよ。僕はイヴァルの兵を残して離れたりしない。それに今はリアムを捜してる」
「…ここにリアム様はいませんよ」
「ウソだ。あの旗は第二王子の旗だろう?リアムはここにいるよ」
「もしや…会ったのですか?」
「うん…会った」
「はーっ…」

 男が更に大きな息を吐いた。
 僕は立ち上がってゆっくりと振り向く。そして目の前で心底困った様子の男の名を呼ぶ。

「僕をリアムに会わせたくなかったから離れろと言ったんだろう?ゼノ」

 ゼノが「そうです」と頷いた。
 
 


 
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