銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 僕は馬を進めてゼノに近づく。
 しかしすぐさまトラビスが僕の前に出る。

「トラビス、邪魔だ」
「いけません。知り合いなのかもしれませんが、彼は敵です」
「話を聞きたいだけだ。ゼノ、僕はここから離れない。離れるならおまえ達の方だ。ここはイヴァル帝国の領地。今すぐに立ち去ってほしい」
「できるならそうしたい…。今回のことは俺の本意ではありません。しかし主の命には逆らえぬし、主を放ってもおけませんので…」
「主とはバイロン国の王のこと?それともリアムのこと?リアムを放っておけないのなら、すぐに城に戻ればいいじゃないか」
「いえ…それは…」

 突然トラビスが剣を振った。カキンと金属がぶつかる音がして、バイロン兵の一人が弾き飛ばされる。

「フィル様っ、悠長に話してる場合ではありません!ここは危険です!」
「でもまだ話がっ」
「話も何もその男は敵です!俺が斬り捨てましょうか?」

 ゼノも飛んできた矢を剣で退けながら「遠慮する」と馬首をめぐらせる。

「あっ、待って!村人達に怪我をさせないでっ」
「わかっております。抵抗しない者に無体なマネはしませんよ、我が主は。フィル様、俺は忠告しましたよ?一刻も早くここから離れますよう。もしくは早く降参を」
「ゼノ!」

 ゼノは言いたいことだけ言うと、再びイヴァル兵を蹴散らして兵団の中へと消えた。
 ゼノが去った方角を見ていると、背後から音が聞こえた。瞬時に剣を抜き飛んできた矢を叩き落とす。

「フィル様っ」
「大丈夫だ。問題ない。僕のことは気にせずに進め」
「はい。しかし…先ほどの彼の言葉が気になります」
「ここを離れろと言ったこと?僕は離れないよ。ここを取り戻すまでは。ましてや降参などしない」
「もちろんです。この土地を見捨てるようなことはしません。ただ、彼はなぜあなたを遠ざけたいのか。ここにあなたがいるとマズイことでもあるのか」
「それを知るためにも僕はここにいる。それに命をかけて戦ってる騎士達を置いて逃げるなんてしないよ」
「フィル様…」

 僕はトラビスと目を合わせ、トラビスの背後を見る。兵の集団が散らばって、村の中央に立てられた旗まで道ができている。
 僕は愛馬ロロの横腹を蹴って走り出した。

「あっ、お待ちを!」

 後ろからトラビスが慌てた声を出す。
 少しだけ振り向くと、横から現れたバイロン兵の集団に塞がれて、トラビスが足止めされている。
 僕の名も称号も呼ぶわけにもいかず、トラビスが雄叫びを上げた。
 
「ごめんトラビス」

 声に出さずに謝って、旗に向かって突き進む。  
 僕に気づいて阻もうとするバイロン兵を、魔法を使って弾き飛ばす。どんどんと旗に近づくにつれて、旗の下に大将らしき男が剣を手に立っていることに気づいた。
 あの男が我が国に戦をしかけてきたのか?金髪に高身長の男…。第一王子なのか?だけど旗が違う。リアムには第一王子以外にも兄弟がいるの?でもそんな話は聞いていない。
 ……いや、待って。僕はなにか勘違いをしている。リアムはひどい怪我をした。だから城に戻って養生していると思い込んでいた。だけどあれから何日経っている?もうすっかり動き回れるはずだ…。金髪に高身長。それに男が手に持っているあの剣を、僕は見たことがなかったか。あれは…あの男は…。
 向こうを向いていた男が、僕に気づいて振り向いた。
 僕は衝撃のあまり手綱を離してしまい馬から転げ落ちた。強かに身体を打ち、すぐには起き上がれない。呻きながら上半身を起こした僕の目の前に、黒いブーツがある。

「なんだおまえ。勢いよく突進してきた割には馬から落ちて。バカなのか?」
「…え?」

 リアムの声だ。ずっと聞きたかった愛しい人の声だ。だけど優しさが微塵もない。それどころかなんて冷たいんだ。
 ゆっくりと顔を上げてすぐ傍に立つ男を見上げた。

「リア…厶…」
「ん?なぜ俺の名を知ってる。どこかで会ったのか?」

 リアムがしゃがんで僕の顎を掴む。

「僕が…わからないの?」
「知らない。だが、おまえは美しいな。白い肌に輝く銀髪。決めた。おまえは俺の妻にする。城に連れて帰るぞ。一緒に来い」
「なにを…言って…」
「立て」

 リアムが立ち上がりながら僕の腕を掴んだ。





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