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僕は困ってラズールを見上げる。
ラズールは無言で頷くと、ゼノに近づき片膝をついた。そして光でゼノと周辺を照らす。
僕は一人一人の顔を確認した。ゼノしか見知った顔がいない。しかしこの中に、今回の盗難事件を起こした犯人がいるはずだ。その者は、黒の軍服か青の軍服かどちらだ?
ラズールが手を伸ばしてゼノの首に触れる。
「な…にを、する…」
抵抗できないゼノの言葉を無視して、そのままにしている。脈を確認しているのだろう。
小さく頷き立ち上がろうとしたラズールのマントをゼノが掴んだ。そのせいでマントがめくれて軍服が見えてしまう。
「おまえ…やはり…イヴァル…の…」
ラズールはマントを強く引いてゼノの手から放させると、僕の隣に来た。そして僕の肩を抱いて、まだ何か言いかけているゼノと騎士達を避けて通り過ぎ、さらに奥へと進んだ。
僕は地面に倒れ伏した人達を気にしながら、ラズールに促されるまま足を前に出した。
かなり歩いて、ようやく最奥に着く。これだけ深く掘られているのに、光に照らされた壁の中には、まだまだ石が埋まっているのかキラキラと輝いている。この鉱脈があるから、バイロン国は豊かなんだと僕は納得する。本物の宝の山だ。
隣接するイヴァル帝国が、この山を手に入れようとしていると噂が流れたら、誰もが信じるだろう。それを噂だけでは済ませずに、真実にしようと企んでいる者がいる。ラズールの考えでは、バイロン国の中にいる。そうやって我が国のせいにして、その者達は何がしたいのだろうか?イヴァル帝国とバイロン国との間で戦をおこしたい?若い王に代替わりしたばかりの国だから、攻めやすいと舐められている?
「疲れましたか?」
隣から聞こえたとても優しい声に顔を動かす。
ラズールに肌が出ている顎を撫でられて、僕は考えるのをやめた。
この盗難事件は謎だらけだ。王城に戻ってすぐに、イヴァル帝国の軍服を着ていたという共犯者を捜し出さなければ。
「そういえば」とラズールが僕から手を離して、壁に埋まる緑色の石に触れながら呟く。
「俺のマントがめくられて中の軍服が見えた時に、一人だけ他の者と違う反応をした人物がいました。そいつが犯人ではないかと考えます」
「えっ、そうなの?よく見てたね。どちらの軍服を着てた?」
「青の…軍服でした」
「じゃあバイロン国の王都から派遣されてきた騎士だ。ということは、今回のことを命じた人物が王都にいるということ?一体誰だろう。まさか…王族の誰かが…?」
「残念ながら第二王子…ではないことは確かですね」
「当然だよ!盗難が起きてた頃は僕と一緒にいたんだから。それにリアムはそんな卑怯なことはしないよ」
「そうですか」
ラズールが、光を出している手とは反対の手に炎を出して壁に押し当てた。ジュ…と音がして煙があがる。
「どうしたの?」
「毒虫です。気をつけてください」
「えっ、ゼノ達大丈夫かな」
「大丈夫ですよ。しびれ薬の匂いで虫は寄ってきませんから」
僕は安堵する。
「一旦ここを出ましょう」と言うラズールに手を引かれて来た道を戻ろうとした時に、ラズールが炎を当てた箇所が目に入った。
壁の中の大きな紫色の石が、黒く汚れていた。
ラズールは無言で頷くと、ゼノに近づき片膝をついた。そして光でゼノと周辺を照らす。
僕は一人一人の顔を確認した。ゼノしか見知った顔がいない。しかしこの中に、今回の盗難事件を起こした犯人がいるはずだ。その者は、黒の軍服か青の軍服かどちらだ?
ラズールが手を伸ばしてゼノの首に触れる。
「な…にを、する…」
抵抗できないゼノの言葉を無視して、そのままにしている。脈を確認しているのだろう。
小さく頷き立ち上がろうとしたラズールのマントをゼノが掴んだ。そのせいでマントがめくれて軍服が見えてしまう。
「おまえ…やはり…イヴァル…の…」
ラズールはマントを強く引いてゼノの手から放させると、僕の隣に来た。そして僕の肩を抱いて、まだ何か言いかけているゼノと騎士達を避けて通り過ぎ、さらに奥へと進んだ。
僕は地面に倒れ伏した人達を気にしながら、ラズールに促されるまま足を前に出した。
かなり歩いて、ようやく最奥に着く。これだけ深く掘られているのに、光に照らされた壁の中には、まだまだ石が埋まっているのかキラキラと輝いている。この鉱脈があるから、バイロン国は豊かなんだと僕は納得する。本物の宝の山だ。
隣接するイヴァル帝国が、この山を手に入れようとしていると噂が流れたら、誰もが信じるだろう。それを噂だけでは済ませずに、真実にしようと企んでいる者がいる。ラズールの考えでは、バイロン国の中にいる。そうやって我が国のせいにして、その者達は何がしたいのだろうか?イヴァル帝国とバイロン国との間で戦をおこしたい?若い王に代替わりしたばかりの国だから、攻めやすいと舐められている?
「疲れましたか?」
隣から聞こえたとても優しい声に顔を動かす。
ラズールに肌が出ている顎を撫でられて、僕は考えるのをやめた。
この盗難事件は謎だらけだ。王城に戻ってすぐに、イヴァル帝国の軍服を着ていたという共犯者を捜し出さなければ。
「そういえば」とラズールが僕から手を離して、壁に埋まる緑色の石に触れながら呟く。
「俺のマントがめくられて中の軍服が見えた時に、一人だけ他の者と違う反応をした人物がいました。そいつが犯人ではないかと考えます」
「えっ、そうなの?よく見てたね。どちらの軍服を着てた?」
「青の…軍服でした」
「じゃあバイロン国の王都から派遣されてきた騎士だ。ということは、今回のことを命じた人物が王都にいるということ?一体誰だろう。まさか…王族の誰かが…?」
「残念ながら第二王子…ではないことは確かですね」
「当然だよ!盗難が起きてた頃は僕と一緒にいたんだから。それにリアムはそんな卑怯なことはしないよ」
「そうですか」
ラズールが、光を出している手とは反対の手に炎を出して壁に押し当てた。ジュ…と音がして煙があがる。
「どうしたの?」
「毒虫です。気をつけてください」
「えっ、ゼノ達大丈夫かな」
「大丈夫ですよ。しびれ薬の匂いで虫は寄ってきませんから」
僕は安堵する。
「一旦ここを出ましょう」と言うラズールに手を引かれて来た道を戻ろうとした時に、ラズールが炎を当てた箇所が目に入った。
壁の中の大きな紫色の石が、黒く汚れていた。
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