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村長が話していた通り、採掘場の周りに警備の騎士の姿はなかった。その代わり、一帯に結界が張られている。しかしさほど強いものではない。
僕が手をかざすと、簡単に穴が空いて入ることができた。
続いて入ってきたラズールを振り返り、首を傾げる。
「どういうこと?日に日に強い結界を張ったんじゃないの?村長の家に張ってあったものより弱いんだけど…」
「そうですね。これでは盗みに入ってくださいと言ってるようなものです」
「村長が嘘を言ってるようには思えない」
「ええ。もしかすると、ここの結界を張ったというバイロン国の騎士も、今回の一件に関わっているのかもしれません」
「え?じゃあ、そのバイロン国の騎士と、犯人の仲間らしいイヴァル帝国の騎士に繋がりがあるということ?」
「イヴァル帝国側にいたという騎士ですが…。俺はバイロン国の者が我が国に潜入してイヴァル帝国の騎士に変装していたのではないかと考えてます。だからこの盗難事件は、バイロン国の誰かが仕組んだことではないかと」
「そんな…っ」
採掘場の入口に向かって歩いていたが、ラズールの考えに驚いて僕の足が止まる。
ラズールが僕の背中に手を添えて「とりあえず中に入りましょう」と優しく押した。
採掘場の中は真っ暗だった。月の明かりで入口の様子はわかる。しかし奥は真っ黒で、どこまで続いているのかもわからない。
すると僕の顔の横で白い光が点った。ラズールが手のひらに白く光る玉を乗せていた。
「魔法?」
「そうです。あなたもできるでしょう?」
「ううん、僕は炎しか出せない。炎だと熱くて手のひらに長く出せないんだ」
「そうでしたか?昔はできていたと思うのですが」
「そうなんだけど…。最近は魔法の調整がうまくできない。ラズール、また教えてくれる?」
「もちろん。城に戻ったら」
僕は頷き、ラズールの明かりを頼りに先へと進む。穴の中は静かで、僕とラズールの足音と、穴の天井からポタリと落ちる水の音しか聞こえない。それにひどく寒い。
僕は身体を震わせてクシャミをした。
「…くしゅん」
「大丈夫ですか」
「うん…寒いね」
「ふ…、先ほどは軍服は暖かいと言ってたのに」
「穴の中がこんなに冷えるとは思わなかったんだよ。…おまえは時々意地が悪いことを言う」
「あなたを…大切に想ってるからですよ」
「意味がわからない」
「ほら、そのような顔をしないで。また意地悪をしたくなります」
「どうして?やっぱり意味がわからないし、おまえは変だ」
「そうですよ」
再びくしゅん!とクシャミをして鼻をこすっていると、身体が暖かいものに包まれた。
背中からラズールが抱きしめたのだ。
「なに…」
「暖めています」
「苦しいんだけど」
「少しだけ、このままで」
「……」
早く調査をしなくていいのかと思ったけど、ラズールの体温が気持ちよくて、全身の力を抜いた。
幼い頃から親しみ慣れた温もりと匂い。とても暖かい上に疲れていたので、寝そうになる。僕は何度も頭を揺らし瞼をこすりながら耐えていたけど、結局は眠ってしまったらしい。僕を呼ぶ声に気づいて目を開けると、木の天井が見えた。
僕が手をかざすと、簡単に穴が空いて入ることができた。
続いて入ってきたラズールを振り返り、首を傾げる。
「どういうこと?日に日に強い結界を張ったんじゃないの?村長の家に張ってあったものより弱いんだけど…」
「そうですね。これでは盗みに入ってくださいと言ってるようなものです」
「村長が嘘を言ってるようには思えない」
「ええ。もしかすると、ここの結界を張ったというバイロン国の騎士も、今回の一件に関わっているのかもしれません」
「え?じゃあ、そのバイロン国の騎士と、犯人の仲間らしいイヴァル帝国の騎士に繋がりがあるということ?」
「イヴァル帝国側にいたという騎士ですが…。俺はバイロン国の者が我が国に潜入してイヴァル帝国の騎士に変装していたのではないかと考えてます。だからこの盗難事件は、バイロン国の誰かが仕組んだことではないかと」
「そんな…っ」
採掘場の入口に向かって歩いていたが、ラズールの考えに驚いて僕の足が止まる。
ラズールが僕の背中に手を添えて「とりあえず中に入りましょう」と優しく押した。
採掘場の中は真っ暗だった。月の明かりで入口の様子はわかる。しかし奥は真っ黒で、どこまで続いているのかもわからない。
すると僕の顔の横で白い光が点った。ラズールが手のひらに白く光る玉を乗せていた。
「魔法?」
「そうです。あなたもできるでしょう?」
「ううん、僕は炎しか出せない。炎だと熱くて手のひらに長く出せないんだ」
「そうでしたか?昔はできていたと思うのですが」
「そうなんだけど…。最近は魔法の調整がうまくできない。ラズール、また教えてくれる?」
「もちろん。城に戻ったら」
僕は頷き、ラズールの明かりを頼りに先へと進む。穴の中は静かで、僕とラズールの足音と、穴の天井からポタリと落ちる水の音しか聞こえない。それにひどく寒い。
僕は身体を震わせてクシャミをした。
「…くしゅん」
「大丈夫ですか」
「うん…寒いね」
「ふ…、先ほどは軍服は暖かいと言ってたのに」
「穴の中がこんなに冷えるとは思わなかったんだよ。…おまえは時々意地が悪いことを言う」
「あなたを…大切に想ってるからですよ」
「意味がわからない」
「ほら、そのような顔をしないで。また意地悪をしたくなります」
「どうして?やっぱり意味がわからないし、おまえは変だ」
「そうですよ」
再びくしゅん!とクシャミをして鼻をこすっていると、身体が暖かいものに包まれた。
背中からラズールが抱きしめたのだ。
「なに…」
「暖めています」
「苦しいんだけど」
「少しだけ、このままで」
「……」
早く調査をしなくていいのかと思ったけど、ラズールの体温が気持ちよくて、全身の力を抜いた。
幼い頃から親しみ慣れた温もりと匂い。とても暖かい上に疲れていたので、寝そうになる。僕は何度も頭を揺らし瞼をこすりながら耐えていたけど、結局は眠ってしまったらしい。僕を呼ぶ声に気づいて目を開けると、木の天井が見えた。
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