銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 翌早朝、副隊長を含む六人と馬を残して、関所を通らずに密かに国境を越えた。ラズールいわく、このような抜け道はたくさんあるらしい。だから密入国者が絶えないのだそうだ。
 その話を聞いて、僕は国境の警備を更に強化しなければと思った。
 本当は、国境を越えるのに通行証もいらなくて自由に行き来できることが理想だ。しかしそれだと各国の民が入り交じり混乱が生じてしまう。きちんとした線引きは必要なのだ。


  ラズールを先頭に僕が続き、後ろから五人の騎士がついてくる。
 僕はこの中では一番下っ端だし最後尾にいるべきだと言ったけど、ラズールが許してくれなかった。

「でも軍の規律は守らないとダメじゃないかな。僕が前を行くと他の騎士の反感を買うよ?」
「それならば、俺が最後尾につきます」
「えっ、どうして?」
「言ったでしょう?あなたの傍を離れませんと」
「うぅ…ラズールの頑固者…っ。わかったよ、ラズールの後ろでいい…」
「納得していただけてよかったです」

 朝起きて、僕の銀髪をきれいに結い上げるラズールとした会話だ。
 僕に茶色の髪のカツラをかぶせ、軍服を整えて腰のベルトに剣まで差してくれた。そして二人分のマントを手に「では行きましょうか」と僕の肩を抱いて部屋を出た。


 村は周囲を低い石垣で囲まれていた。それに魔法で結界が張られている。しかしラズールが簡単に素早く結界に穴を開け、そこから村に侵入して再び素早く閉じた。
 僕達は黒いマントをはおって軍服を隠してるけど、かなり怪しい一群だ。だからきちんと舗装された道ではなく、たまにしか人が通らないような草が伸び放題の細い道を進んだ。
 あまりにもスルスルと進んでいたので、休憩の時に傍にいたラズールに聞いてみた。

「ラズールはこの村に来たことがあるの?」
「なぜです?」
「道に詳しいから」
「ああなるほど。来たことはありません。この村の地理に詳しい者に教えてもらったのです」
「へぇ…。イヴァル帝国にそんな人いるの?」
「…あまり言いたくはないのですが、王都で捕まえた賊です。バイロン国で盗難騒ぎがあり、その犯人がイヴァル帝国の民だと疑われていると話してきたのも、その賊です」
「えっ…。信用できるの?その人」
「嘘だとしても、怪しい話は放っておけません。その賊はもっと詳しい内容を知っているようでしたが、これ以上話すと殺されると言ってました」
「なにそれ…」
「その後すぐに俺の配下の者に調べさせました。確かにこの村で宝石の盗難があり、イヴァル帝国の仕業だと噂されていました。その報せが届いたのが、隣国の第二王子が来た翌日です。前日に報せが届いていれば、あの王子に問い質したものを…!」
 

 
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