銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「伯父上いるか?俺だ、リアムだ。入っても?」
「開いてるから入れ」

 伯父上の部屋の前につき声をかけた。
 許可をもらって扉を開け中に入る。俺の後に続いて使用人頭の男も中に入った。
 伯父上は、窓の前の大きな机の前で、真剣な顔つきで書類の束を見ていた。扉が閉まる音に顔を上げると、俺の後ろを見て目を丸くした。

「おまえは…使用人頭の」
「突然失礼いたします。ラシェット様にもご報告をと思いまして」
「何かあったのか?」
 
 伯父上が俺と後ろの男に交互に目を向ける。

「伯父上の許可をもらおうと思って。おい、先ほどの話を伯父上にも説明してくれ」
「はい」

 使用人頭の男は頷くと、俺に話した通りの内容を伯父上にも話した。 
 話を聞くにつれて伯父上の眉間にシワが寄る。
 全てを話し終えて男が頭を下げたと同時に、伯父上が低く唸った。

「ふむ…軍服を着た男か。確かか?」
「はい。この城で兵が着用しているものと同じでした」
「だがおまえは見たことがない顔だと言ったな。俺の部下ではないということか…」
「私はラシェット様にお仕えしている者の顔は全て覚えております」
「そうよな。おまえはこの城で一番の古株だ。信用できる。しかしその使者がもしも王都の兵ならば、この城の兵と軍服の色が違う。一体誰が来たのか」

 伯父上が、机の上で両手を組んで再び唸りだした。
 
「俺は村に行こうと思う」
「なに?」

 机の上に両手を置いて伯父上の方に身を乗り出した俺に、伯父上の眉間のシワがより一層深いものになる。

「待て。そんな怪しい使者の言葉を信じるのか?」
「信じてはいないが、なにか事情があるのかもしれない。本当にゼノが俺の助けを必要としているかもしれない」
「しかし手紙もないのだぞ。来いと言う詳しい理由がわからないことには、大事なおまえを行かせられない」
「心配してくれてありがとう。だけど俺は行くよ。気になって仕方がないからなっ」
「リアム…」

 伯父上が困った顔で長く息を吐く。
 子供の頃にわがままを言った俺に、ダメだと言いながらも最終的には許してくれた時と同じ顔だ。
 伯父上は、俺の頼みには弱いんだ。

「ゼノとジルを連れてすぐに帰ってくるから。頼むよ」
「…わかった。だが一人ではダメだ。兵をつけるぞ」
「ははっ!相変わらず心配症だなぁ。じゃあ腕の立つ者を一人頼むよ」
「三人だ」
「そんなにいらない。ここの警備が手薄になる。それに俺は強いから」
「過信をするな。ならせめて二人はつれていけ」
「わかったよ。では準備をしてく…」
「待て待て。今から行く気か?」
「うん?早い方がいいだろ」
「今夜はゆっくり寝て明日の朝に出ろ」
「なんでだよ。ゼノとジルは夜に出たじゃないか。そっちの方が目立たなくていいって言って」
「まあそうなんだが…。夜道は危ない」
「伯父上、俺は子供じゃない。大丈夫だ。準備でき次第出るからな。帯同する兵にも準備するように言ってくれよ」
「はあ…っ、おまえは一度言い出したら聞かないからな…。とにかく気をつけてくれよ。くれぐれも無理はするな」

「わかってるって」と俺は笑いながら言う。
 伯父上は俺をいつまでも子供扱いして心配してくれる。今や俺のことを心配してくれるのなんて伯父上だけだ。…いや、フィーも心配してくれるな。俺を大切に想ってくれている。
 それに今から行く村はイヴァル帝国との国境沿いにある。少しでもフィーの近くに行きたい。村での問題を早く解決させて王都に戻り、父上の許可をもらってイヴァル帝国に潜入する。
 そう考えると、この先の道に光がさしたように思えて、俺は足取り軽く部屋を後にした。
 
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