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「話すからそんな顔をするな」
険しい俺の顔を見て、伯父上が勘違いをしている。
伯父上の領地で何か問題が起こっていることも忌ま忌ましいが、母に辛くあたっていた嫌いな王妃のことを思い出して、嫌な気持ちになっただけだ。
俺が「違う。第一王妃のことを思い出してムカついてたんだよ」と笑うと、「ああ」と伯父上も笑った。
「あの方は驚くほど気性が荒かったな。一人で耐えていたアリスから無理やり話を聞き出した時は、怒りで全身が震えたわ」
伯父上が苦笑しながら言う。
その時のことは俺も覚えている。
王城に来ていた伯父上が母と俺の元へ訪れ、笑顔で迎えた母の小さな変化に気づき、しつこく聞いて第一王妃にいじめられていることを聞き出した。そして剣を掴んで出ていこうとする伯父上を、母と侍女が必死で止めていたな。
あの時の伯父上の剣幕はすごかったと思い出していたら嫌な気持ちが消えた。
俺は伯父上の方に身体を向ける。
「話が逸れた。それで?なにがあったんだ?」
「おお、そうだった。おまえの話を聞いた後では話しにくいのだが…。イヴァル帝国との国境近くの村で、盗難が起きている」
「盗難?賊か?」
「俺も初めはそうかと思ったのだが違う。あの村には、宝石が採れる山がある。だから王都から兵を出してもらって警護している。賊は寄りつくこともできない」
「なら村人か?」
「それも有りえない。宝石が採れ、薬草も栽培していて裕福な村だ。貧しい者がいない。盗む必要などないのだ」
「では誰が…」
「それを今、調べに行ってもらっている。すぐに解決できればいいのだが…。さて、俺は眠くなってきたぞ。そろそろ部屋に戻る。また明日な。おやすみリアム」
「…わかった。おやすみ」
伯父上は立ち上がって背伸びをすると、扉の結界を解いて出ていった。
まだ眠くはないが、ベッドで仰向けになる。頭の下に両手を置いて、天井の模様をぼんやりと眺めた。
俺も大変だが伯父上も大変だな。考えなければならないことがたくさんある。ゼノが戻って来たら、王城に戻って父上に会おう。父上は、イヴァル帝国の王が代わったことを、少しは気にしているはずだ。新王の動向を調べるという名目でイヴァルに潜入する許可をもらい、フィーの血縁者のことを調べよう。かなり遠い血縁者でもいい。銀髪の女が見つかれば。
そこであることに思い至って俺は跳ね起きた。
血縁者の女を作るのに、一番簡単な方法がある。フィーの子供を作ることだ。フィーに女の子ができれば、その子が王となる。だがそんなことは我慢できない。フィーが俺以外の誰かと繋がるのか?嫌だ。ラズールだってそうだろう。それにまだフィーは若い。今すぐどうこうってことはないだろうが、いずれはその可能性も出てくる。悠長にしている時間はない。できる限り早くフィーを迎えに行かなければ。
悶々と考え込んでいるうちに眠ってしまった。
疲れている上に酒を飲んだせいで深く眠っていたらしく、目が覚めると翌日の昼を過ぎていた。
険しい俺の顔を見て、伯父上が勘違いをしている。
伯父上の領地で何か問題が起こっていることも忌ま忌ましいが、母に辛くあたっていた嫌いな王妃のことを思い出して、嫌な気持ちになっただけだ。
俺が「違う。第一王妃のことを思い出してムカついてたんだよ」と笑うと、「ああ」と伯父上も笑った。
「あの方は驚くほど気性が荒かったな。一人で耐えていたアリスから無理やり話を聞き出した時は、怒りで全身が震えたわ」
伯父上が苦笑しながら言う。
その時のことは俺も覚えている。
王城に来ていた伯父上が母と俺の元へ訪れ、笑顔で迎えた母の小さな変化に気づき、しつこく聞いて第一王妃にいじめられていることを聞き出した。そして剣を掴んで出ていこうとする伯父上を、母と侍女が必死で止めていたな。
あの時の伯父上の剣幕はすごかったと思い出していたら嫌な気持ちが消えた。
俺は伯父上の方に身体を向ける。
「話が逸れた。それで?なにがあったんだ?」
「おお、そうだった。おまえの話を聞いた後では話しにくいのだが…。イヴァル帝国との国境近くの村で、盗難が起きている」
「盗難?賊か?」
「俺も初めはそうかと思ったのだが違う。あの村には、宝石が採れる山がある。だから王都から兵を出してもらって警護している。賊は寄りつくこともできない」
「なら村人か?」
「それも有りえない。宝石が採れ、薬草も栽培していて裕福な村だ。貧しい者がいない。盗む必要などないのだ」
「では誰が…」
「それを今、調べに行ってもらっている。すぐに解決できればいいのだが…。さて、俺は眠くなってきたぞ。そろそろ部屋に戻る。また明日な。おやすみリアム」
「…わかった。おやすみ」
伯父上は立ち上がって背伸びをすると、扉の結界を解いて出ていった。
まだ眠くはないが、ベッドで仰向けになる。頭の下に両手を置いて、天井の模様をぼんやりと眺めた。
俺も大変だが伯父上も大変だな。考えなければならないことがたくさんある。ゼノが戻って来たら、王城に戻って父上に会おう。父上は、イヴァル帝国の王が代わったことを、少しは気にしているはずだ。新王の動向を調べるという名目でイヴァルに潜入する許可をもらい、フィーの血縁者のことを調べよう。かなり遠い血縁者でもいい。銀髪の女が見つかれば。
そこであることに思い至って俺は跳ね起きた。
血縁者の女を作るのに、一番簡単な方法がある。フィーの子供を作ることだ。フィーに女の子ができれば、その子が王となる。だがそんなことは我慢できない。フィーが俺以外の誰かと繋がるのか?嫌だ。ラズールだってそうだろう。それにまだフィーは若い。今すぐどうこうってことはないだろうが、いずれはその可能性も出てくる。悠長にしている時間はない。できる限り早くフィーを迎えに行かなければ。
悶々と考え込んでいるうちに眠ってしまった。
疲れている上に酒を飲んだせいで深く眠っていたらしく、目が覚めると翌日の昼を過ぎていた。
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