銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 俺の固く握りしめた手の上に、手が重ねられる。その手が暖かくて、気持ちが少し落ち着いた。

「リアム…話しにくければ無理に話さなくともいいのだぞ?」

 俺は黙って伯父上を見つめた。そして小さく首を横に振る。

「いや、伯父上には聞いてほしい。フィーが城から消えて、俺はすぐに父上にイヴァル帝国に行く許可をもらった。前王の弔問という名目でイヴァル帝国に行き、フィーを連れ戻すために。ろくに休憩もとらずに馬を走らせ隣国に着いた。そして新王と対面した。その新王は…フィーだった」
「えっ!隣国は、王は女でなければならないのではなかったか?」
「そうだよ。だから対面したフィーは、女王の格好をして、自分はフェリだと双子の姉を名乗ったんだ」

 あの時のフィーの姿を思い浮かべる。
 銀糸で刺繍がされた黒のドレスを着たフィー。とても美しかった。誰が見ても美しい女性だと思っただろう。だが俺は、部屋に入るなりフィーだとわかっていた。フィーがどのような姿をしていたとしても、必ず気づくよ。
 伯父上の静かな声に、俺は伏せていた目を上げる。

「一度はいらぬと城から追い出しておいて、また代わりをさせるために連れ戻したのか。そのような所にいて、フィルさんは幸せになれるのか…?そもそも、なぜ再び代わりをしている?」
「前王が亡くなり王女も病に倒れたんだ。だからフィーは国に戻った。姉を助けるためだと話していた。しかし姉も死んでしまったらしい。…憶測だが、イヴァル帝国では王は女でなければならない。だからフィーは、この先ずっと姉のフェリとして女王を続けていくつもりなのだろう」
「無茶苦茶な話だな。王女まで亡くなられていたことは、とても可哀想な話ではある。しかしフィルさんは男だろう?王は女がすると決まっているなら、例え女のフリをしたとしても、男のフィルさんではダメなのじゃないか?それならばいっその事、フィルさんが男のまま王になったほうがマシではないのか」
「まあ…まともな伯父上や俺はそう考えるさ。でもイヴァルの王城にいる奴らは、悪しき慣習にとらわれて頭がおかしくなってる。外からどんなに意見を言っても聞きやしないよ。フィーは責任感が強いから、国と民を捨てて俺の元へ来ることができないんだ。王族の者としての責任を果たそうとしてる。俺はね伯父上、フィーと約束をした。必ず迎えに行くから待ってろと。フィーも待ってると言ってくれた」
「そうか。しかしフィルさんは国を離れられないのだろう?フィルさん以外に王になる者がいないのなら」
「そうなんだよなぁ。他に王族の血縁者で女がいれば解決すると思うんだが…」

 俺は腕を組んで天井を睨む。
 王は女がなるものだというなら、他にフィーの血縁者の女が見つかれば、男のフィーが王になるよりはいいんじゃないかと、帰ってくる道中もずっと考えていた。フィーは血縁者は母と姉だけだと言っていたが、よく捜せば遠縁の者がいるんじゃないか?銀色の髪を持つ血縁者が。
 その者を捜し出して連れていき、フィーをさらうか。或いはこれはやりたくはない方法だが、隣国に…。

「リアム、俺はおまえやフィルさんのために力になりたい。ところでこのことを父王には話さんのか?」

 伯父上の声に顔を下ろすと、俺は大きく息を吐いた。
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