125 / 451
2
しおりを挟む
ここはイヴァル帝国の王都の中にある高級宿だ。トラビスの案内でここに来て、一番高い部屋に通された。ゼノ以外の従者は隣の部屋で休んでいる。
フィーとの面会のすぐ後に、前王の葬儀の準備で忙しいからすぐに帰れと、あのムカつくラズールに言われた。
俺は無視していたがゼノが頷いたので、ラズールはサッサと部屋を出ていった。
ゼノ曰く「ここにいても今は何もできません。一旦国に戻り、フィル様を連れ出す算段を考えましょう」とのことだ。
それは俺もわかっている。だけどここを出る前にもう一度、フィーに会いたい。必ず迎えに来るから待ってて欲しいと伝えたい。
フィーの部屋さえわかれば…と考えていると、今度はトラビスが来た。
「何用だ。よくも俺の前に顔を出せたな。俺はおまえがフィーを傷つけたこと、バイロン国の王城から連れ出したことを許してないぞ」
「わかってます。フィル様を傷つけたことは反省してます。しかし連れ出したことに関しては、フィル様が望んだことでしたので謝りません」
俺の前で片膝をついて、まっすぐにこちらを見てくる。体格がよくて腕が立ちそうだし意志が強そうだ。性格もラズールよりはマシに思える。
「まあいい。それで?俺達は早々にここを出るように言われてるんだが?」
「…その前に、フィル様に会わせてさしあげます。王子、俺についてきてください」
「なに?なぜだ?まさか俺を連れ出して殺…」
「そのような卑怯なマネはしません!王子、時間がありません。どうしますか?」
「…行くよ」
俺は手に持っていた灰色のマントをはおった。
ゼノがついてこようとするのを、トラビスが止める。
「王子お一人でお願いします。人が多くなれば目立つ。大丈夫です。必ず戻ってきますので、あなた方はここでお待ちください」
「ゼノ、帰り支度をして待ってろ」
「…かしこまりました。トラビス殿、頼みますよ」
「承知」
トラビスが俺に頷いて部屋を出る。
俺は後に続き、トラビスの後ろをついていく。
フィーの部屋は、俺がいた部屋から意外と近かった。花が咲く美しい中庭を抜けると、すぐにフィーの部屋の下についた。
「フィル様の部屋は二階です。上れますか?」
「余裕だ」
「あまり時間がありません。少し話したら、すぐに降りてきてください」
「わかった」
俺は一階の部屋に誰もいないことを確認すると、窓枠に手をかけてスルスルと登った。二階のバルコニーに降り立つ。どうやってフィーに声をかけようかと思ったが、いきなり目の前にフィーがいた。ドレスを脱いでいつものシャツとズボンに着替え、窓から空を眺めていた。
フィーの大きな目から涙が溢れ、シャツの袖で拭っている。
なぜ泣いてる?やはり辛いのだろ?そんな姿を見せられては我慢できない。
俺は窓をカツンと叩いた。
フィーがこちらを見て、俺に気づいて驚いている。
ふふ、可愛いな。
俺を見て涙が止まらなくなったフィーが、震える手で鍵を外した。
直後に、俺は静かに窓を開けて中に入り、フィーを抱きしめた。
フィーとの面会のすぐ後に、前王の葬儀の準備で忙しいからすぐに帰れと、あのムカつくラズールに言われた。
俺は無視していたがゼノが頷いたので、ラズールはサッサと部屋を出ていった。
ゼノ曰く「ここにいても今は何もできません。一旦国に戻り、フィル様を連れ出す算段を考えましょう」とのことだ。
それは俺もわかっている。だけどここを出る前にもう一度、フィーに会いたい。必ず迎えに来るから待ってて欲しいと伝えたい。
フィーの部屋さえわかれば…と考えていると、今度はトラビスが来た。
「何用だ。よくも俺の前に顔を出せたな。俺はおまえがフィーを傷つけたこと、バイロン国の王城から連れ出したことを許してないぞ」
「わかってます。フィル様を傷つけたことは反省してます。しかし連れ出したことに関しては、フィル様が望んだことでしたので謝りません」
俺の前で片膝をついて、まっすぐにこちらを見てくる。体格がよくて腕が立ちそうだし意志が強そうだ。性格もラズールよりはマシに思える。
「まあいい。それで?俺達は早々にここを出るように言われてるんだが?」
「…その前に、フィル様に会わせてさしあげます。王子、俺についてきてください」
「なに?なぜだ?まさか俺を連れ出して殺…」
「そのような卑怯なマネはしません!王子、時間がありません。どうしますか?」
「…行くよ」
俺は手に持っていた灰色のマントをはおった。
ゼノがついてこようとするのを、トラビスが止める。
「王子お一人でお願いします。人が多くなれば目立つ。大丈夫です。必ず戻ってきますので、あなた方はここでお待ちください」
「ゼノ、帰り支度をして待ってろ」
「…かしこまりました。トラビス殿、頼みますよ」
「承知」
トラビスが俺に頷いて部屋を出る。
俺は後に続き、トラビスの後ろをついていく。
フィーの部屋は、俺がいた部屋から意外と近かった。花が咲く美しい中庭を抜けると、すぐにフィーの部屋の下についた。
「フィル様の部屋は二階です。上れますか?」
「余裕だ」
「あまり時間がありません。少し話したら、すぐに降りてきてください」
「わかった」
俺は一階の部屋に誰もいないことを確認すると、窓枠に手をかけてスルスルと登った。二階のバルコニーに降り立つ。どうやってフィーに声をかけようかと思ったが、いきなり目の前にフィーがいた。ドレスを脱いでいつものシャツとズボンに着替え、窓から空を眺めていた。
フィーの大きな目から涙が溢れ、シャツの袖で拭っている。
なぜ泣いてる?やはり辛いのだろ?そんな姿を見せられては我慢できない。
俺は窓をカツンと叩いた。
フィーがこちらを見て、俺に気づいて驚いている。
ふふ、可愛いな。
俺を見て涙が止まらなくなったフィーが、震える手で鍵を外した。
直後に、俺は静かに窓を開けて中に入り、フィーを抱きしめた。
12
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる