銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

文字の大きさ
上 下
124 / 451

リアムの想い

しおりを挟む
 俺はベッドに寝転び花の絵が描かれた天井を眺めていた。
 花から伸びた茎が、フィーの身体の痣の模様と似ている。そう思ってゼノに言ったところ「似てますかね」とそっけなく返された。ゼノが鈍感なのか俺がフィーを想う余りに何を見てもフィーと関連づけてしまうのか…。たぶん後者だな。それほどに俺はフィーを愛している。

「しかしこの宿は、調度品などは良い物を使っていますが少々品がないですね」
「そうだな。我が国よりは劣る」
「おや?珍しい。あなたが他国の悪口を言うとは。かなりご立腹のようだ」
「当たり前だ。国ぐるみでフィーをいいように使いやがって…!」
「リアム様、口調が下品ですよ」
「知るか」

 吐き捨てるように言って勢いよく起き上がりベッドを降りる。
 ゼノが俺に酒が入ったグラスを渡してくる。
 俺はそれを受け取ると、一気に飲み干して息を吐いた。
「まだ飲みますか?」と空のグラスを受け取りながらゼノが言う。
 俺は「いや、いい」と首を振ると、窓に近寄り遠くに見える王城の灯りを眺めた。

「あの男は帰ったのか?」
「トラビスとかいうイヴァル帝国の軍隊長ですか?いえ、帰ってません。この宿の周りを、連れてきた部下と共に警護しますと言ってましたから。我々が王都を出るまではついてくるそうです」
「ふーん、あいつは味方なのか」
「そうですねぇ。バイロンの王城からフィル様を連れ出しておきながら、今さら協力すると言われても信用できませんからねぇ」
「その通りだ」
「しかしリアム様がフィル様と対面されている時も、トラビス殿は邪魔をしませんでしたね。なので少しは信用できるんじゃないですか?あのラズールとかいう側近は、敵意むき出しで怖かったですけど」

 整った顔立ちではあるが、とても冷たい雰囲気の男の顔を思い出して、俺は思いっきり顔をしかめた。
 隣に来たゼノが俺を見て、苦笑いをしている。

「リアム様…お顔が。フィル様には見せられないひどい顔ですよ」
「おまえは一言が多い。フィーに腹が立つことなど永劫ありえないから、こんな顔は見せぬ」
「なるほど」
「ラズールは、フィーを大切な主と思ってるにしては度が過ぎてる。俺に渡すものかと顔にあらわれていたしな。フィーのことを愛してるのだろう」
「そのようですね。リアム様も大変ですねぇ。妻になられる方がモテすぎて」
「仕方がない…フィーが可愛すぎるからな」
「…そうですか」

 ゼノが真顔になって答える。俺がフィーの話をするといつもこんな顔をする。フィーがいかに優しくて可愛くて素晴らしいかを話しすぎたせいで、もう胸がいっぱいなんだそうだ。
 俺は王城に向かって声に出さずに「フィーおやすみ」と呟くと、ベッドに戻って腰掛けた。
 ゼノが俺と自分の剣の手入れをしながら口を開く。

「それで、これからどうするおつもりで?」
「早く帰れと言わんばかりに城を追い出されたからな。一旦バイロン国に戻る」
「その後、イヴァル帝国の新女王に結婚を申し込みますか?そうすれば堂々とフィル様のお傍にいれますよ」
「それは俺も考えた。対面の時に求婚しようかとも思った。…だがダメだ。イヴァル帝国の…あの城にいてはフィーは幸せになれない。俺が傍にいて守ってやったとしても、心から笑ってくれないだろう」
「では、さらいますか?」
「そうだ。とにかくイヴァル帝国から連れ出す。そしてバイロンじゃなくてもいい。イヴァル以外のどこの国でもいいから、誰にも知られずに二人で暮らしたい」
「それは…リアム様は王位がいらないということになりますが」
「ああ、いらぬ。フィーさえいれば、それでいい」
「それならば、第一王子を推す貴族たちも、喜んで協力してくれそうですね」
「邪魔な俺がいなくなるなら、大金も出してくれるんじゃないか?その金で小さな家でも買うかな」

 俺は鼻で笑うと、再びゴロリと横になった。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

目が覚めたら異世界で魔法使いだった。

いみじき
BL
ごく平凡な高校球児だったはずが、目がさめると異世界で銀髪碧眼の魔法使いになっていた。おまけに邪神を名乗る美青年ミクラエヴァに「主」と呼ばれ、恋人だったと迫られるが、何も覚えていない。果たして自分は何者なのか。 《書き下ろしつき同人誌販売中》

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...