銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 一瞬遅れて伸ばした手を隣国の王子に払われて、俺は「女王に触れないでいただきたい」と怒鳴った。
 王子も怒鳴り返し、フィル様を自国に連れて帰ると言い張る。続けてフィル様に身代わりをさせるということは王女も亡くなったのかと聞いてきた。
 苦労のしていなさそうな隣国の第二王子など、何も考えず呑気に毎日を暮らしているだけの人物と思っていたが、中々に賢いようだ。だが快活に見える王子には、フィル様が経験されてきた辛苦をわかりはしない。

 俺は核心を突かれて口ごもった。
 しかし代わりにフィル様がフェリ様として話しだした。弟を大切に思ってくれたと感謝までしたというのに、王子は全く信じない。快活そうな性格のわりにしつこい男だ。
 いつまでもフィル様の腕を離さない王子に、フェリ様のフリをしたフィル様は、弟は死んだと言った。自分の心臓を剣で貫き、血を私に飲ませたと話して目を伏せた。
 王子は無言で大きな溜息をついた。
 フィル様の話を信じてはいないだろうが、ようやく納得したかと思ったその時、王子がフィル様の腕を持ち上げ袖をめくった。
 黒い蔦の模様があらわになる。
 フィル様は化け物みたいだと言うが、俺は美しいと思っている。白い肌に浮かび上がる模様が、フィル様をとても尊いものにしている。
 あの模様に指を這わせたい。
 フィル様の痣を見た日から願っている。
 そんな俺の目の前で、王子が「やはりな」と呟いて、フィル様の痣を指でなぞりだした。

「隣国の王子、その手を離してください。とても失礼なことをされているとわからないのですか?そして…やはりとはどういう意味ですか」

 自分でも驚くほどの低い声が出た。
 気安く触れるな。それは簡単に触れていいものではない。早く離せ。
 怒りで俺の身体が震え出す。なのにあろうことか、王子はフィル様の痣にキスをした。
 俺は腰の剣に手を伸ばそうとした。
 その動作に気づいたのか王子がこちらを見上げて鋭く睨んできた。

「フィーは左半身に痣がある。痣が出現する瞬間を、俺は見てたんだ。だから…おまえはフィーだ。フィー、俺と一緒にバイロン国に帰ろう」
「リアム…王子…」

 左手の甲にキスをされ、フィル様の緑の瞳が揺れている。
 そのまま頷くのだろうか。やはり王子の傍にいたいのだろうか。それほどにフィル様は王子のことを愛しているのか。
 俺は手を固く握りしめた。
 だがフィル様は、毅然とした態度で口を開いた。

「この痣は、フィルの命をもらった時に私の身体にも現れたのです。ですから痣があっても何の証にもなりません。何度も言います。私はフェリです。フィルはもう死んでいません。呪われた子ゆえ、すでに荼毘に付してしまいました」
「リアム王子には、わざわざ我が国まで来ていただき感謝しております。ですがあなたの目的は果たせません。どうか早々に国に戻られますよう。そして我が国の兵を返してくださいますようお願いします」

 王子は無言でフィル様を見つめた。
 フィル様も王子を見つめ返す。
 しばらく見つめ合う二人だけの空間を、俺が壊した。

「フェリ様、部屋へ戻りますよ。まだ怪我も治っていないのです。休まなければ悪化してしまいます」
「…わかってる。ではリアム王子、私は失礼します。帰国への道中、どうかお気をつけて…」

 一刻も早くフィル様を王子から離したい。
 俺はフィル様が言い終わるよりも早く抱き上げると、王子には目もくれずに繊月の間を後にした。

 
 フィル様の部屋を離れて廊下を歩きながら考える。
 隣国の王子には、早々にご帰国願おう。夜道を帰れぬと言うなら、王都の高級宿か、王都に接する領地の貴族の城に泊まらせよう。とにかく早く城から追い出してやる。
 トラビスには今度こそ責務を果たさせる。今すぐに王子を城から連れ出してもらうぞ。そして二度と王都には入れさせぬ。だが相手は他国の王族だ。隣国と波風を立たせないように扱わなければならないのが面倒だ。
 俺は足を止めてフィル様の部屋を振り返った。そして再び前を向くと、軍の待機部屋へと急いで向かった。


ラズールの至宝(終)
 

 






 
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