銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 フィル様がフェリ様と対面された日。
 俺はフィル様の命をフェリ様に移すために大切な宝物に剣を突き出した。しかし驚いたことにフィル様の華奢な身体に剣が刺さらない。
 困惑したフィル様がシャツを脱ぐと、蔦のような痣が剣先に絡みついて、身体を傷つけることを阻止している。
 今にも命の火が消えそうなフェリ様の姿に、首を斬れとフィル様が叫んだ。だが首にまで広がった痣が邪魔をする。では毒を飲もうかと騒いでいるうちに、フェリ様がついに力尽きた。
 フィル様はとても悲しんだ。フェリ様を助けるために戻って来たのに、結局なにもできなかったと自分を責めていた。
 悲しむフィル様の隣で、緊急の会議が行われる。大宰相がもしもの時のためにと考えていた案を聞いて、扉の前で外を見張るトラビス以外の全員が賛成をした。

 その案は、昔のようにフィル様がフェリ様の代わりとなること。フェリ様のフリをして女王となること。
 本当は、俺はフィル様を連れ出して、どこか静かな所で二人で暮らすことを願っていた。でもそれは無理だろう。城から出てもいいなら、フィル様は隣国の第二王子の元へ行ってしまうだろうから。
 それならば、ずっとイヴァル帝国に縛りつけておく。女王として国と民を守る責務を与えて、イヴァル帝国から離れられないようにする。そして俺も、この国から離れない。フィル様の傍にいる。
 女王となったフィル様は、永遠にバイロン国の第二王子の元へは行けないのだ。

 大宰相から話を聞いて、フィル様はできないと首を横に振った。
 俺は震えるフィル様の背中を抱きしめて、高揚の余り、うわずりそうになる声を落ち着かせながら言う。

「フィル様、あなたがやらなければならないのですよ」
「無理だ…やりたくない。それに僕は…王の器じゃない。できないよ…」
「大丈夫です。あなたならできます。俺がずっと支えます。傍にいます。だからどうか女王になると仰ってください…」

 思わず声が震えてしまった。嬉しくて。この国から出ることが叶わないフィル様を想像して。
 こちらを見たフィル様の目には、どう映っただろうか。フィル様の境遇に共感して悲しんでいるように見えてたならいいが。

「少しだけ、姉上と二人にさせて。お願い…」

 そう願うフィル様を置いて、皆が部屋を出た。
 俺はフィル様の部屋の前で待っていた。
 しばらくして戻って来たフィル様は、感情の読み取れない人形のような顔をしていた。
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