銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

文字の大きさ
上 下
115 / 451

15

しおりを挟む
 大宰相と会った。
 フィル様は翌日にフェリ様に会うと話し、フィル様の命を捧げることには反対すると告げた。
 言いたいことだけ言って部屋を出る俺の背中に向かって、大宰相が言葉を投げつける。

「ラズール、おまえは何もわかっていない。呪われた子の宿命を!この国には女王が必要なことを…!」
「知る必要はない。俺にはフィル様が全てだ」

 後ろを振り返らずにそう吐き捨ててその場を去る。その足で今度はトラビスの元へ向かった。  
 あいつはフィル様がバイロン国にいた理由を知っている。詳しく聞き出さねばならない。
 部屋にトラビスの姿はなく、もしやと修練場に行くと、トラビスが熱心に剣を振るっていた。
 
「精が出るな」
「…何用だ」

 先ほど追い返されたことを根に持っているのだろう。俺を睨んで低く答える。
 俺はベンチに座ると「聞きたいことがある」と睨み返した。
 トラビスが剣を鞘におさめて近寄る。そして身体ひとつ分離れて腰を下ろす。

「なにを」
「フィル様はなぜバイロン国にいた?バイロン国になにかあるのか?」
「フィル様からは聞いてないのか?」
「聞ける状況ではなかったからな」
「ふーん」

 額に流れる汗を袖で拭いながら、トラビスが意味深な目で俺を見る。

「なんだ」
「直接聞くのが怖かったんだろ。フィル様はこのひと月ほどで、ずいぶんと印象が変わられたからなぁ。誰かの影響かもな」
「誰かとは誰だ」
「バイロン国にいる誰かだよ」

 俺の胸がザワザワと騒ぎ出す。なんだ?何があった?フィル様に影響を与えた誰かがいるのか?

「俺がフィル様を刺した話はしただろ。あの時に助けに来た高貴な男は、バイロン国の第二王子だった。この前に使者として行った時に、初めて知った」
「…王子?」
「そうだ。隣国の第二王子は、フィル様のことをかなり気に入ってるようだな。まるで騎士のようにフィル様を守りながら旅をして、自分の城に連れ帰ったらしいぞ」
「気に入ってるとはどういう…」
「さあな。それはフィル様に直接聞いたらどうだ?」
「……そうだな」

 俺は立ち上がると、トラビスに背を向けて修練場を出た。
 胸の中が気持ち悪い。嫌な予感がする。
 まさか…フィル様と隣国の王子は…。いや、考えすぎだ。二人の間にあるのは友情だ。王子という同じ立場で気が合っただけだ。
 だが、そもそも隣国の王子は、フィル様がイヴァル帝国の王女の片割れだと知っているのか。フィル様はそこまで話されたのだろうか。
 フィル様の口から直接聞くのは気が進まないが、はっきりさせないことには胸の中の気持ち悪さが消えない。
 とりあえずは城に戻ってから何も口にされていないフィル様のために料理を用意してもらい、フィル様の部屋に行く。
 外から声をかけると、眠そうに瞼をこするフィル様が顔を出した。その可愛らしい様子に少しだけ気持ちが楽になる。
 中に入り料理の入ったカゴを机に置いて、寝癖のついた銀髪を撫でた。
 フィル様が首を傾けて俺を見上げる。

「なにかあった?大宰相に怒られたの?元気がない」

 表情を顔に出さないようにしていたのにフィル様に気づかれてしまった。困ったけど俺のことをよく見てくれているんだと嬉しかった。
 しかしトラビスに聞いた隣国の王子のことが気になって、俺はイライラとしていた。
 そんな俺の心境に気づいて、フィル様が不安そうに涙を浮かべている。
 その顔が可愛くて、俺は困ったように笑った。

「そのような顔をしないで…。申し訳ありません。本当に俺の勝手な想いなのですよ。食事の後で話しますから、先に食べてください」
「わかった…」

 フィル様が椅子に座り、食事をする様子を眺める。何をされていても愛おしい。
 しかしこの後に、バイロン国の王子のことを聞くのが怖い。可愛らしい口から吐き出される言葉を聞くのが怖い。俺は冷静でいられるだろうかと、とても不安になった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...