銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 俺は足音を立てずに扉に近づき取手を握った。ゆっくりと引くと、引かれた勢いのままに、小柄な人がこちらへとよろめいた。
 咄嗟に受け止めた身体からフワリと香る匂いと手に触れた感触。そんな……本当に?

「あ…ごめん…なさ…」
「…その声…まさ…か」

 俯いた小柄な人が謝っている。
 俺の声が震える。身体も震えてしまう。

「フィル様…」

 俯いた人が顔を上げる。被っていたフードが取れて、美しい銀髪が現れた。


「よく…ご無事で…っ」
「うん…」

 俺はフィル様を強く抱きしめた。
 これは夢なのか?俺の腕の中に、何よりも大切なフィル様がいる。俺が捜しに行く前に戻ってきてくれた。愛しい俺の至宝。もう二度と離さない。

「ずっと…会いたかった」
「僕も…会いたかったよ」

 そう言いながら、フィル様が俺の腕から抜け出そうとする。
 俺は離すまいと、さらに強く抱きしめた。

「ラズール…離して」
「…嫌です」
「どうして…?僕と一緒に来てくれなかったのに…。なのに今さらっ、会いたいなんて言うなっ」

 フィル様が叫んで泣き出した。俺の胸を叩いて子供のように泣きじゃくっている。本当に愛おしくてたまらない。フィル様がこのように感情をぶつけてくるのは俺にだけだ。なんと幸せなことだろうか。

「ラズールのっ…ばか…っ」
「フィル様…申しわけありません!俺もあなたと行きたかった。離れたくなかった。ずっと傍にいると誓った約束を…守りたかった!」
「来なかったくせにっ…!うそつきっ、ラズールはうそつきだ!ラズールなんて…嫌いだっ…!」
「フィル様っ…!俺は…っ、あなたに嫌われては生きていけないっ」

 フィル様は拗ねているのだ。俺と一緒に行きたかったのにと拗ねているのだ。だけど嘘でも嫌いだと言われるのは辛い。
 俺はフィル様に会えた喜びと嫌いだと言われた悲しみで冷静でいられなくなり、知らぬ間に滅多に流さない涙を流していた。

 フィル様が涙に濡れた顔を上げる。
 俺は震える手で、目の前の濡れた頬に触れた。
 俺の涙を見て驚くフィル様の顔。様々な表情を見せてくれるフィル様の全てが愛おしい。できるならば唇を寄せて涙を吸いたい。小さな唇を塞いで口内へ入りたい。しかし俺の勝手な欲望を押しつけたりはしない。フィル様は俺の宝なのだから。
 俺が嫌いだと言われて悲しいと言うと、フィル様は謝ってくれた。何をされても嫌いにはならないと言われて安心した。
 フィル様の濡れた頬を袖で拭いながら、ジッと見つめる。しばらく見ない間に、また美しくなられた。人さらいに会うこともなく、よくぞ無事で戻ってきてくれた。これからは俺がフィル様を守ります。何からも守ります。だからもう二度と、俺から離れないで。


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