銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 俺は出られる場所を探して城の中を徘徊している間、ずっと考えていた。
 自分で扉や窓を開けようすると身体が痺れて動けなくなるが、誰かが開けた扉や窓からなら、外に出られるのではないか。
 そう考えて通用口の前まで来たその時、扉が開いてトラビスが入ってきたのだ。


 トラビスが、扉の前で立ち止まった俺に気づき足を止める。そして俺を見たが、目の焦点が合っておらず俺を認識していないようだ。
 トラビスの背後で扉が音を立てて閉まり、俺は小さく舌打ちをした。

「チッ…、今出ればよかった。様子がおかしいおまえに気を取られた…」
「…ラズール?」

 俺の声を聞いて、ようやくトラビスの目に光が戻る。
 俺は壁にもたれて腕を組み、「どこに行っていた」と聞いた。
 トラビスはその場に立ち尽くし、手を固く握りしめた。その拳が震えていることに気づいて、俺は更に聞いた。

「ずいぶんと遠出をしていたようだな。どこまで行った?」
「…言えない」

 俯いたままトラビスが答える。
 俺は今度は大きく息を吐く。そしてトラビスに近づくと、トラビスの腰に差した剣を素早く抜いて刀身を見た。

「あっ!何をするっ」
「なんだこれは?人を斬ってきたのか」

 慌てて伸ばしたトラビスの手を掴んでひねると、トラビスが容易く膝をついた。
 俺は驚いた。トラビスが俺よりも弱いとはいえ、こんな簡単に技をかけられる奴ではない。やはり何かあったのだな。落ち込みようがひどすぎる。

「…手を離せよ」
「では何があったか教えろ」
「だから言えないって!」
「このまま折ってもいいんだぞ?」
「脅されても言わないからな!」

 トラビスに睨まれて、それもそうかと俺は手を離した。ここで俺に脅されて口を割るようでは、我が国の軍隊長は務まらない。敵国に捕まって拷問をされることもあるのだ。
 俺はトラビスを一瞥すると、剣に顔を寄せて凝視する。剣先に微かにサビが浮いている。それに…これは脂だ。
 更に顔を寄せて匂いを嗅いだ瞬間、俺の心臓が大きく跳ねた。
 直後にトラビスが俺の手を掴み剣を奪い取る。
 
「人の剣を勝手に触るな!」
「トラビス…おまえ…誰を斬った?」
「おまえには関係ない。俺は王命に従ったまで」
「関係ないことはない。おまえが言わないなら俺が言ってやる。そして返答次第ではおまえを殺す」
「…俺は王に会いに行かねばならない。おまえの相手をしている暇はないんだ」

 俺の前を通り過ぎようとしたトラビスの軍服のエリを掴むと、俺と変わらぬ体躯を壁に強く押しつけた。
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