銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 フィル様は十六歳になり、ついにその時が来た。
 フェリ様が元気になられ、フィル様の役目が終わったのだ。フィル様は城を出されることになった。
 俺はフィル様が王と面会をしている間に準備を済ませ、すぐに迎えに行こうと部屋を出た。
 しかし王には、俺の考えなど全てお見通しだったようだ。
 俺はフィル様の元へ行くことすらできずに、抵抗して斬られ、意識を失った。

 意識が戻った時には、フィル様が城を出されてから三日が過ぎていた。
 フィル様は国境近くの村へ行かされるとは聞いていたが、王はその途中で始末するつもりだったはずだ。ということはもう、フィル様は生きていないかもしれない。それならば、こうして生き延びたとしても意味がない。
 俺は棚の上の剣を見つめた。すぐにでも剣で胸を貫いて、フィル様を追いかけねば。起き上がりベッドから降りて剣を手に取った。斬られた肩が熱く、まだ傷は治っていないようだが、全く痛くない。あの方と離されて、俺の感情も感覚も消えてしまったようだ。
 両手で剣を持ち上げて顔の前に掲げた。ゆっくりと柄を引き抜いたその時、窓がキラリと光った。俺は暗い窓に剣の光が反射したのだろうと思ったが、どうやらそうではないらしい。剣を右手に持って窓に近づく。窓の外の闇の向こうに、遥か遠く向こうに、微かに銀色の光が見えた。
 俺は剣を床に落とした。両手で窓を押し開け、慌ててバルコニーに出る。手すりから身を乗り出さんばかりに遥か遠くを凝視する。
 見えた。確かに銀色の光が。小さな光だが、あれはきっとフィル様だ。フィル様は生きている。生きているなら、必ず会う。もう一度フィル様をこの腕の中に囲って、今度こそ離さない。大切に大切に守り抜く。
 そう決めた途端に、感情と感覚が戻ってきた。 
 フィル様との約束を果たせなかった悔しさと今どこで何をしているのかという不安。
 早く会いたい、顔を見たい、甘い香りを吸いたい、小柄で柔らかい身体を抱きしめたいという欲望。
 溢れ続けて止まらない愛しい気持ち。
 肩を斬られた痛みなど些細なものだ。
 暗い中を片手で手綱を操るのは困難なので、とりあえず今夜は休んで、明朝早くに捜しに行こうと決めた。

 だが、どうあっても王は、俺とフィル様を離したいらしい。
 明朝、俺は再び部屋を出るなり拘束された。そして王の部屋へ連れて行かれ、フェリ様の側近となるよう命じられた。
 
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