銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 俺はフィル様の全ての世話を任されていた。勉強も剣術も、魔法の使い方もだ。そのために俺は人の倍努力して賢く強くなり、フィル様に教えた。
 王族の血筋の者は、代々賢く強かった。フィル様もその血を引くだけあって、一度教えたら砂が水を吸い込むように、どんどんと吸収していった。だから歳の近い子供達の中で、フィル様に適う者はいなかった。トラビスを除いては。
 フィル様が十歳の時に、トラビスにしつこく詰め寄られて対戦をした。もちろんフィル様が勝った。トラビスは、当時女だと思っていたフィル様に負けたことが、余程悔しかったのだろう。それからは必死に鍛錬をして、まだ十七歳という若さで軍隊長に上り詰めた。 
 トラビスのフィル様への態度には少々思うところがあるが、彼の力は認めている。

 相変わらずフィル様は刺客から命を狙われていたが、力をつけた俺が、ことごとく防いだ。それでもごくたまに、五歳のあの時のように防ぎきれないことがある。

 フィル様が十一歳になる目前のある日、王や高官達が不在のため、二人でのんびりと中庭でお茶を飲んでいた。
 フィル様と俺の周りに強力な結界を張り、中庭の周りを兵に守らせていた。それなのにどこからか射られた矢が結界を破ってフィル様の肩を貫いた。
 結界に異変を感じてフィル様の傍を離れたことを、俺はひどく後悔した。傍にいたなら身を呈して守れたのに。
 俺は必ず犯人を捕らえろと兵に叫んで、フィル様の治癒に当たった。矢が刺さっただけならば血を止めて傷を塞げばいい。だが抜いた矢には毒が塗られていた。地面に敷いた上着にフィル様を寝かせ、俺は毒を吸い出した。そして常に持ち歩いている様々な薬が入った袋から、毒消しと化膿止めの液体の小瓶を取り出し、傷口にかけた。その上で傷を塞ぐ魔法を使う。
 苦痛に歪んでいたフィル様の顔が穏やかなものになって、ようやく俺は安堵した。
 汗で顔にへばりついた銀髪を撫でながら、もう大丈夫ですよと笑う。
 フィル様は、ありがとうと礼を言い、矢を抜く時に噛んだ俺の肩の心配をしてくれた。本当に優しい方なのだ。
 噛まれた跡など気にしない。むしろ跡が残ることは嬉しかった。フィル様が俺につけてくれた跡なのだから嬉しいに決まっている。
 俺がフィル様を死なせないし絶対に守りますと話しているうちに、フィル様は耐えきれなくなったのだろう。突然泣き出してしまった。
 俺はフィル様を膝に乗せて胸の内を聞いた。涙が流れる柔らかい頬に唇を寄せて、不憫で可愛くて愛おしい想いに苛まれながら、話を聞いた。
 フィル様が辛い胸の内を話してくれるのは俺にだけだ。甘えてくれるのも俺にだけだ。そのことが俺にとてつもない優越感を与えてくれる。
 この時に、俺の想いをフィル様に話した。いずれ王女様が元気になってフィル様の役目が終わった時には、一緒に城から逃げましょうと。どこかで二人きりで暮らしましょうと。
 フィル様はとても喜んでくれたのだ。そして俺も、必ず成し遂げようと強く決めていたのに。人生とは思い通りにいかないものだ。
 

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