103 / 451
3
しおりを挟む
俺はフィル様の全ての世話を任されていた。勉強も剣術も、魔法の使い方もだ。そのために俺は人の倍努力して賢く強くなり、フィル様に教えた。
王族の血筋の者は、代々賢く強かった。フィル様もその血を引くだけあって、一度教えたら砂が水を吸い込むように、どんどんと吸収していった。だから歳の近い子供達の中で、フィル様に適う者はいなかった。トラビスを除いては。
フィル様が十歳の時に、トラビスにしつこく詰め寄られて対戦をした。もちろんフィル様が勝った。トラビスは、当時女だと思っていたフィル様に負けたことが、余程悔しかったのだろう。それからは必死に鍛錬をして、まだ十七歳という若さで軍隊長に上り詰めた。
トラビスのフィル様への態度には少々思うところがあるが、彼の力は認めている。
相変わらずフィル様は刺客から命を狙われていたが、力をつけた俺が、ことごとく防いだ。それでもごくたまに、五歳のあの時のように防ぎきれないことがある。
フィル様が十一歳になる目前のある日、王や高官達が不在のため、二人でのんびりと中庭でお茶を飲んでいた。
フィル様と俺の周りに強力な結界を張り、中庭の周りを兵に守らせていた。それなのにどこからか射られた矢が結界を破ってフィル様の肩を貫いた。
結界に異変を感じてフィル様の傍を離れたことを、俺はひどく後悔した。傍にいたなら身を呈して守れたのに。
俺は必ず犯人を捕らえろと兵に叫んで、フィル様の治癒に当たった。矢が刺さっただけならば血を止めて傷を塞げばいい。だが抜いた矢には毒が塗られていた。地面に敷いた上着にフィル様を寝かせ、俺は毒を吸い出した。そして常に持ち歩いている様々な薬が入った袋から、毒消しと化膿止めの液体の小瓶を取り出し、傷口にかけた。その上で傷を塞ぐ魔法を使う。
苦痛に歪んでいたフィル様の顔が穏やかなものになって、ようやく俺は安堵した。
汗で顔にへばりついた銀髪を撫でながら、もう大丈夫ですよと笑う。
フィル様は、ありがとうと礼を言い、矢を抜く時に噛んだ俺の肩の心配をしてくれた。本当に優しい方なのだ。
噛まれた跡など気にしない。むしろ跡が残ることは嬉しかった。フィル様が俺につけてくれた跡なのだから嬉しいに決まっている。
俺がフィル様を死なせないし絶対に守りますと話しているうちに、フィル様は耐えきれなくなったのだろう。突然泣き出してしまった。
俺はフィル様を膝に乗せて胸の内を聞いた。涙が流れる柔らかい頬に唇を寄せて、不憫で可愛くて愛おしい想いに苛まれながら、話を聞いた。
フィル様が辛い胸の内を話してくれるのは俺にだけだ。甘えてくれるのも俺にだけだ。そのことが俺にとてつもない優越感を与えてくれる。
この時に、俺の想いをフィル様に話した。いずれ王女様が元気になってフィル様の役目が終わった時には、一緒に城から逃げましょうと。どこかで二人きりで暮らしましょうと。
フィル様はとても喜んでくれたのだ。そして俺も、必ず成し遂げようと強く決めていたのに。人生とは思い通りにいかないものだ。
王族の血筋の者は、代々賢く強かった。フィル様もその血を引くだけあって、一度教えたら砂が水を吸い込むように、どんどんと吸収していった。だから歳の近い子供達の中で、フィル様に適う者はいなかった。トラビスを除いては。
フィル様が十歳の時に、トラビスにしつこく詰め寄られて対戦をした。もちろんフィル様が勝った。トラビスは、当時女だと思っていたフィル様に負けたことが、余程悔しかったのだろう。それからは必死に鍛錬をして、まだ十七歳という若さで軍隊長に上り詰めた。
トラビスのフィル様への態度には少々思うところがあるが、彼の力は認めている。
相変わらずフィル様は刺客から命を狙われていたが、力をつけた俺が、ことごとく防いだ。それでもごくたまに、五歳のあの時のように防ぎきれないことがある。
フィル様が十一歳になる目前のある日、王や高官達が不在のため、二人でのんびりと中庭でお茶を飲んでいた。
フィル様と俺の周りに強力な結界を張り、中庭の周りを兵に守らせていた。それなのにどこからか射られた矢が結界を破ってフィル様の肩を貫いた。
結界に異変を感じてフィル様の傍を離れたことを、俺はひどく後悔した。傍にいたなら身を呈して守れたのに。
俺は必ず犯人を捕らえろと兵に叫んで、フィル様の治癒に当たった。矢が刺さっただけならば血を止めて傷を塞げばいい。だが抜いた矢には毒が塗られていた。地面に敷いた上着にフィル様を寝かせ、俺は毒を吸い出した。そして常に持ち歩いている様々な薬が入った袋から、毒消しと化膿止めの液体の小瓶を取り出し、傷口にかけた。その上で傷を塞ぐ魔法を使う。
苦痛に歪んでいたフィル様の顔が穏やかなものになって、ようやく俺は安堵した。
汗で顔にへばりついた銀髪を撫でながら、もう大丈夫ですよと笑う。
フィル様は、ありがとうと礼を言い、矢を抜く時に噛んだ俺の肩の心配をしてくれた。本当に優しい方なのだ。
噛まれた跡など気にしない。むしろ跡が残ることは嬉しかった。フィル様が俺につけてくれた跡なのだから嬉しいに決まっている。
俺がフィル様を死なせないし絶対に守りますと話しているうちに、フィル様は耐えきれなくなったのだろう。突然泣き出してしまった。
俺はフィル様を膝に乗せて胸の内を聞いた。涙が流れる柔らかい頬に唇を寄せて、不憫で可愛くて愛おしい想いに苛まれながら、話を聞いた。
フィル様が辛い胸の内を話してくれるのは俺にだけだ。甘えてくれるのも俺にだけだ。そのことが俺にとてつもない優越感を与えてくれる。
この時に、俺の想いをフィル様に話した。いずれ王女様が元気になってフィル様の役目が終わった時には、一緒に城から逃げましょうと。どこかで二人きりで暮らしましょうと。
フィル様はとても喜んでくれたのだ。そして俺も、必ず成し遂げようと強く決めていたのに。人生とは思い通りにいかないものだ。
1
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる