銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

文字の大きさ
上 下
102 / 451

2

しおりを挟む
 フィル様は健やかに成長された。
 夜空に輝く月のように美しい銀髪と白い肌、深い緑の大きな瞳と小さな赤い唇がとても愛らしい。病床に伏せっているフェリ様とそっくりらしいが、フェリ様の世話をしている侍女の話によれば、フィル様の方が美しいそうだ。
 フィル様はとても素直な方で、いつもラズールと俺を呼んで懐いてくれた。
 姉のフリをしないで本来の自分で接することができる相手が、俺を含めた数人しかいなかった。しかも俺が一番歳が近いので懐いてくれたのかもしれない。
 とにかく俺は、フィル様が可愛くて仕方がなかった。そして何よりも大切だった。
 しかし後継ぎの王女だと思われていたフィル様には、常に危険が付きまとっていた。
 俺はフィル様の周辺に目を光らせ、フィル様を危険から守るべく努力をした。だがフィル様と八歳しか違わない俺に何ができようか。運良く危険から排除できることもあったが、防ぎきれないこともある。

 フィル様が五歳の時、毒を口にして死にかけた。
 その時俺は、王命で城を離れていた。
 早馬で報せを聞くなり、俺は無意識に自分の馬へと飛び乗った。傍にいた王を放り出して、急いで城に戻った。
 不思議なことに、この時の無礼な態度のお咎めは受けなかった。王が罰しなくてもいいと言ったらしい。王の真意は未だ不明だ。
 フィル様は高熱を出して苦しんでおられた。
 看病をしていた侍女から、すでに毒を吐き出し薬も飲んでいると説明を受けた。
 俺は侍女を部屋から追い出し、一人で看病を始めた。そしてもしもの時のためにと独断で手に入れていた毒消しの薬をフィル様に飲ませようとした。よく効く薬はたいてい苦い。毒消しの薬も例にたがわず苦いらしく、フィル様が飲み込もうとしない。俺はフィル様を助けたい一心で、薬を口に入れて噛み砕き水を含むと、フィル様の両頬を指で挟んで口を開けさせ、直接口移しで飲ませた。
 フィル様は顔を振って嫌がっていたが、俺は数回に分けて全てを飲ませた。飲ませてしばらくすると、フィル様の呼吸が落ち着き高熱で赤く染まった顔もいつもの白い色に戻ってきた。
 ベッドの横で膝をつき、祈るように小さな手を握りしめていた俺は、安堵の息を吐いた。
 熱が下がったのなら何か口に入れる物をと手を離して、俺は苦笑した。
 心配で不安でずっと強く握りしめていたために、フィル様の手が赤くなっている。それだけではない。薬を飲ませることに夢中でフィル様の頬を強く押さえすぎたらしい。白い頬にも赤く指の跡がついている。
 俺はフィル様の頬に残る赤い跡を指の背で撫でた。ふいに、そういえば…と思い返した。
 俺はフィル様の唇に触れたのだった。夢中だったとはいえ、なんてことをしてしまったのだろうか。でも無礼なことをしてしまったという思いよりも、嬉しい気持ちが勝った。
 フィル様を目にして、髪や手や頬に触れられることが嬉しい。俺を呼ぶ声を耳にして俺に向けて笑う顔を目にすると、愛しさで胸がいっぱいになる。
 俺は自覚した。俺はフィル様を、主以上に思っているのだ。

 毒を飲んで五日後にフィル様は回復した。回復したフィル様に王が会いに来た。だがひどく冷たく接せられて、フィル様は傷ついたようだ。  
 俺は思わず小さな身体を抱きしめた。
 俺に抱きしめられた瞬間に泣き出したフィル様を慰めながら、ずっと傍を離れないと、もう何度目かわからない誓いを立てた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...