98 / 451
62
しおりを挟む
僕は手を下ろして顔を上げた。そして窓の外を見て、悲鳴が出ないように咄嗟に口を押さえた。せっかく止まった涙がまた溢れ出る。次から次へと溢れる涙で視界がぼやけてしまう。僕が何度も何度も袖で涙を拭っていると、再びカツンと音がした。
急いで鍵を外そうとするけど手が震えてうまく外せない。ようやく鍵が外れるや否や、窓が勢いよく開く。僕が開けたのではない。窓を開けたのは。
「リア…」
「しっ」
飛びつこうとした僕の唇に人差し指を当てて、リアムが目で合図をする。
僕は口を結んで頷いた。
リアムが笑って僕を抱きしめる。
一瞬迷ったけど我慢できなくて、僕もリアムの背中に腕を回した。
「どうして…?」
音にならない声で聞く。
僕の耳に唇を寄せて、リアムが囁く。
「あいつ…トラビスとかいう、ここの軍隊長。彼がここまで連れてきてくれた」
「トラビスが?でも…ここ二階だよ?」
「俺は二階くらいなら容易く登れる。あいつ、フィーの辛い顔を見たくないとかなんとか言ってたけど。たぶん、おまえのことを…」
「なに?」
「いや…いい。なあ、俺は今からバイロン国に帰るんだが、一緒に来れるか?」
「…ごめん、行けない」
リアムが大きく息を吐く。
僕の身体が大きく揺れる。
リアムは抱きしめた僕の身体を揺らして、僕の名前を優しく呼んだ。
「フィー、俺はおまえを責めてる訳じゃない。フィーの立場をちゃんとわかってる。だけど、どうしてもおまえと離れたくなくて、我儘を言ってみたんだ」
「リアム…」
僕はリアムの胸に顔を押しつけて、大好きな匂いを吸い込んだ。この匂いも腕の力も温もりも、絶対に忘れない。リアムのこと、心から愛してる。
僕の耳朶に唇を触れさせながら、リアムが掠れた声を出す。その声に、今度は腰の奥が震えた。
僕は顔を上げると、背伸びをしてリアムの唇にキスをする。
「リアム、僕のこと、気づいてくれてありがとう。嬉しかった。あんな態度を取ったのに、こうして会いに来てくれて嬉しかった」
「おまえがどんな格好をしてようが、すぐにわかる。それに目が覚めたらいなくなっていて、辛かったぞ?」
「うん…ごめんね」
触れ合わせたままの唇がくすぐったい。一度深く合わせて舌を絡める。久しぶりのリアムの熱い舌に、頭も身体も蕩けそうだ。
チュッ…と音を鳴らして離れると、今度は額を合わせて見つめ合う。
「なあ、また身代わりをしているってことは、王に続いておまえの姉も死んだのだな?」
「うん…。僕は姉上を助けなきゃいけなかったのに、できなかった」
「それでいい。そうなる運命だったんだ。おまえの姉には悪いが、俺はおまえが無事で心底安堵している」
リアムの言葉に、また涙が出てきた。こんなに泣いてしまうのは、やっぱりリアムのせいだ。
僕はゴシゴシと袖で顔を拭くと、照れ笑いを浮かべた。
急いで鍵を外そうとするけど手が震えてうまく外せない。ようやく鍵が外れるや否や、窓が勢いよく開く。僕が開けたのではない。窓を開けたのは。
「リア…」
「しっ」
飛びつこうとした僕の唇に人差し指を当てて、リアムが目で合図をする。
僕は口を結んで頷いた。
リアムが笑って僕を抱きしめる。
一瞬迷ったけど我慢できなくて、僕もリアムの背中に腕を回した。
「どうして…?」
音にならない声で聞く。
僕の耳に唇を寄せて、リアムが囁く。
「あいつ…トラビスとかいう、ここの軍隊長。彼がここまで連れてきてくれた」
「トラビスが?でも…ここ二階だよ?」
「俺は二階くらいなら容易く登れる。あいつ、フィーの辛い顔を見たくないとかなんとか言ってたけど。たぶん、おまえのことを…」
「なに?」
「いや…いい。なあ、俺は今からバイロン国に帰るんだが、一緒に来れるか?」
「…ごめん、行けない」
リアムが大きく息を吐く。
僕の身体が大きく揺れる。
リアムは抱きしめた僕の身体を揺らして、僕の名前を優しく呼んだ。
「フィー、俺はおまえを責めてる訳じゃない。フィーの立場をちゃんとわかってる。だけど、どうしてもおまえと離れたくなくて、我儘を言ってみたんだ」
「リアム…」
僕はリアムの胸に顔を押しつけて、大好きな匂いを吸い込んだ。この匂いも腕の力も温もりも、絶対に忘れない。リアムのこと、心から愛してる。
僕の耳朶に唇を触れさせながら、リアムが掠れた声を出す。その声に、今度は腰の奥が震えた。
僕は顔を上げると、背伸びをしてリアムの唇にキスをする。
「リアム、僕のこと、気づいてくれてありがとう。嬉しかった。あんな態度を取ったのに、こうして会いに来てくれて嬉しかった」
「おまえがどんな格好をしてようが、すぐにわかる。それに目が覚めたらいなくなっていて、辛かったぞ?」
「うん…ごめんね」
触れ合わせたままの唇がくすぐったい。一度深く合わせて舌を絡める。久しぶりのリアムの熱い舌に、頭も身体も蕩けそうだ。
チュッ…と音を鳴らして離れると、今度は額を合わせて見つめ合う。
「なあ、また身代わりをしているってことは、王に続いておまえの姉も死んだのだな?」
「うん…。僕は姉上を助けなきゃいけなかったのに、できなかった」
「それでいい。そうなる運命だったんだ。おまえの姉には悪いが、俺はおまえが無事で心底安堵している」
リアムの言葉に、また涙が出てきた。こんなに泣いてしまうのは、やっぱりリアムのせいだ。
僕はゴシゴシと袖で顔を拭くと、照れ笑いを浮かべた。
11
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる