銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 僕は手を下ろして顔を上げた。そして窓の外を見て、悲鳴が出ないように咄嗟に口を押さえた。せっかく止まった涙がまた溢れ出る。次から次へと溢れる涙で視界がぼやけてしまう。僕が何度も何度も袖で涙を拭っていると、再びカツンと音がした。
 急いで鍵を外そうとするけど手が震えてうまく外せない。ようやく鍵が外れるや否や、窓が勢いよく開く。僕が開けたのではない。窓を開けたのは。

「リア…」
「しっ」

 飛びつこうとした僕の唇に人差し指を当てて、リアムが目で合図をする。
 僕は口を結んで頷いた。
 リアムが笑って僕を抱きしめる。
 一瞬迷ったけど我慢できなくて、僕もリアムの背中に腕を回した。

「どうして…?」

 音にならない声で聞く。
 僕の耳に唇を寄せて、リアムが囁く。

「あいつ…トラビスとかいう、ここの軍隊長。彼がここまで連れてきてくれた」
「トラビスが?でも…ここ二階だよ?」
「俺は二階くらいなら容易く登れる。あいつ、フィーの辛い顔を見たくないとかなんとか言ってたけど。たぶん、おまえのことを…」
「なに?」
「いや…いい。なあ、俺は今からバイロン国に帰るんだが、一緒に来れるか?」
「…ごめん、行けない」

 リアムが大きく息を吐く。
 僕の身体が大きく揺れる。
 リアムは抱きしめた僕の身体を揺らして、僕の名前を優しく呼んだ。

「フィー、俺はおまえを責めてる訳じゃない。フィーの立場をちゃんとわかってる。だけど、どうしてもおまえと離れたくなくて、我儘を言ってみたんだ」
「リアム…」

 僕はリアムの胸に顔を押しつけて、大好きな匂いを吸い込んだ。この匂いも腕の力も温もりも、絶対に忘れない。リアムのこと、心から愛してる。
 僕の耳朶に唇を触れさせながら、リアムが掠れた声を出す。その声に、今度は腰の奥が震えた。
 僕は顔を上げると、背伸びをしてリアムの唇にキスをする。

「リアム、僕のこと、気づいてくれてありがとう。嬉しかった。あんな態度を取ったのに、こうして会いに来てくれて嬉しかった」
「おまえがどんな格好をしてようが、すぐにわかる。それに目が覚めたらいなくなっていて、辛かったぞ?」
「うん…ごめんね」

 触れ合わせたままの唇がくすぐったい。一度深く合わせて舌を絡める。久しぶりのリアムの熱い舌に、頭も身体も蕩けそうだ。
 チュッ…と音を鳴らして離れると、今度は額を合わせて見つめ合う。

「なあ、また身代わりをしているってことは、王に続いておまえの姉も死んだのだな?」
「うん…。僕は姉上を助けなきゃいけなかったのに、できなかった」
「それでいい。そうなる運命だったんだ。おまえの姉には悪いが、俺はおまえが無事で心底安堵している」

 リアムの言葉に、また涙が出てきた。こんなに泣いてしまうのは、やっぱりリアムのせいだ。
 僕はゴシゴシと袖で顔を拭くと、照れ笑いを浮かべた。

 
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