銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「ラズール、これ脱ぎたい。今日はもう人と会うことはないだろ?」
「そうですね。着替えてもいいですよ。ただ休憩の後に、今後のやるべきことの説明をしたいのですが」
「わかった」
「では昼食後に呼びに来ます」
「ん…」

 ラズールが頭を下げて出て行った。
 僕は息を吐くと、椅子から立ち上がり背中のボダンを外そうと手を後ろにやる。

「しまった…ラズールにこれ外すの手伝ってもらえばよかった」

 ラズールが去った扉を見つめながら、なんとか小さなボタンを外していく。ドレスの袖から腕を抜き、ドレスを下にストンと落として横に移動する。脱いだドレスをそのままに下着姿で窓に寄ると、両手を組んで伸びをした。
 ドレスは腹回りが絞られているから窮屈で嫌だ。これから僕の正体を知る人以外と会う時は、ドレスを着なければならないと思うと憂うつだ。

「でも…僕は王様だし、少しくらい勝手を言ってもいいよね。他国の賓客と会う時以外は、男の格好でいいかな。後でラズールに頼んでみよう」

 ブツブツと誰にともなく言ってみる。
 ラズールが許してくれれば、大宰相も大臣も文句は言わないだろう。というか僕は王様なんだから、どんな格好でいたって自由じゃないか。きちんと役目を果たす代わりに、それくらいは自由にさせて欲しい。
 ふいに寒気を感じて、僕は身体を震わせた。
 窓から射す陽が暖かいとはいえ、この姿でいてはさすがに寒かった。急いで棚の上に畳んで置いてあるシャツを手に取り袖を通す。その時に腕の痣が目に入り、一瞬動きを止めた。
 まだ下半身には広がっていないけど、いずれは黒い蔦が僕の全身を包みそうな気がする。そうなった時、僕は死ぬのだろうか。それとも本物の化け物になるのだろうか。
 僕は目を閉じて首を振ると、素早くシャツを着てズボンを履いた。
 床に脱ぎ捨てていたドレスを椅子にかけると、もう一度窓に寄り外を眺めた。
 リアムはもう、城を出たかな。二度と会うことはないのかな。もしもリアムが結婚したなどと聞いたら、僕は耐えられるのかな。
 青い空を眺めて長い息を吐く。息を吐き出したと同時に、涙も出た。
 この城に戻って来てから、泣いてばかりだ。十六で城を出るまで辛いことがたくさんあったけど、それでもラズールの胸でたまに泣くだけだったのに。リアムと出会ってから僕の涙腺が確実に弱くなった。幸せを知ると涙もろくなると知った。

「きっとリアムのせいだ…」

 ふふっと笑って濡れた頬を袖で拭く。両袖を目に押し当てて涙を止めていると、窓に何かが当たる音がした。
 
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