97 / 451
61
しおりを挟む
「ラズール、これ脱ぎたい。今日はもう人と会うことはないだろ?」
「そうですね。着替えてもいいですよ。ただ休憩の後に、今後のやるべきことの説明をしたいのですが」
「わかった」
「では昼食後に呼びに来ます」
「ん…」
ラズールが頭を下げて出て行った。
僕は息を吐くと、椅子から立ち上がり背中のボダンを外そうと手を後ろにやる。
「しまった…ラズールにこれ外すの手伝ってもらえばよかった」
ラズールが去った扉を見つめながら、なんとか小さなボタンを外していく。ドレスの袖から腕を抜き、ドレスを下にストンと落として横に移動する。脱いだドレスをそのままに下着姿で窓に寄ると、両手を組んで伸びをした。
ドレスは腹回りが絞られているから窮屈で嫌だ。これから僕の正体を知る人以外と会う時は、ドレスを着なければならないと思うと憂うつだ。
「でも…僕は王様だし、少しくらい勝手を言ってもいいよね。他国の賓客と会う時以外は、男の格好でいいかな。後でラズールに頼んでみよう」
ブツブツと誰にともなく言ってみる。
ラズールが許してくれれば、大宰相も大臣も文句は言わないだろう。というか僕は王様なんだから、どんな格好でいたって自由じゃないか。きちんと役目を果たす代わりに、それくらいは自由にさせて欲しい。
ふいに寒気を感じて、僕は身体を震わせた。
窓から射す陽が暖かいとはいえ、この姿でいてはさすがに寒かった。急いで棚の上に畳んで置いてあるシャツを手に取り袖を通す。その時に腕の痣が目に入り、一瞬動きを止めた。
まだ下半身には広がっていないけど、いずれは黒い蔦が僕の全身を包みそうな気がする。そうなった時、僕は死ぬのだろうか。それとも本物の化け物になるのだろうか。
僕は目を閉じて首を振ると、素早くシャツを着てズボンを履いた。
床に脱ぎ捨てていたドレスを椅子にかけると、もう一度窓に寄り外を眺めた。
リアムはもう、城を出たかな。二度と会うことはないのかな。もしもリアムが結婚したなどと聞いたら、僕は耐えられるのかな。
青い空を眺めて長い息を吐く。息を吐き出したと同時に、涙も出た。
この城に戻って来てから、泣いてばかりだ。十六で城を出るまで辛いことがたくさんあったけど、それでもラズールの胸でたまに泣くだけだったのに。リアムと出会ってから僕の涙腺が確実に弱くなった。幸せを知ると涙もろくなると知った。
「きっとリアムのせいだ…」
ふふっと笑って濡れた頬を袖で拭く。両袖を目に押し当てて涙を止めていると、窓に何かが当たる音がした。
「そうですね。着替えてもいいですよ。ただ休憩の後に、今後のやるべきことの説明をしたいのですが」
「わかった」
「では昼食後に呼びに来ます」
「ん…」
ラズールが頭を下げて出て行った。
僕は息を吐くと、椅子から立ち上がり背中のボダンを外そうと手を後ろにやる。
「しまった…ラズールにこれ外すの手伝ってもらえばよかった」
ラズールが去った扉を見つめながら、なんとか小さなボタンを外していく。ドレスの袖から腕を抜き、ドレスを下にストンと落として横に移動する。脱いだドレスをそのままに下着姿で窓に寄ると、両手を組んで伸びをした。
ドレスは腹回りが絞られているから窮屈で嫌だ。これから僕の正体を知る人以外と会う時は、ドレスを着なければならないと思うと憂うつだ。
「でも…僕は王様だし、少しくらい勝手を言ってもいいよね。他国の賓客と会う時以外は、男の格好でいいかな。後でラズールに頼んでみよう」
ブツブツと誰にともなく言ってみる。
ラズールが許してくれれば、大宰相も大臣も文句は言わないだろう。というか僕は王様なんだから、どんな格好でいたって自由じゃないか。きちんと役目を果たす代わりに、それくらいは自由にさせて欲しい。
ふいに寒気を感じて、僕は身体を震わせた。
窓から射す陽が暖かいとはいえ、この姿でいてはさすがに寒かった。急いで棚の上に畳んで置いてあるシャツを手に取り袖を通す。その時に腕の痣が目に入り、一瞬動きを止めた。
まだ下半身には広がっていないけど、いずれは黒い蔦が僕の全身を包みそうな気がする。そうなった時、僕は死ぬのだろうか。それとも本物の化け物になるのだろうか。
僕は目を閉じて首を振ると、素早くシャツを着てズボンを履いた。
床に脱ぎ捨てていたドレスを椅子にかけると、もう一度窓に寄り外を眺めた。
リアムはもう、城を出たかな。二度と会うことはないのかな。もしもリアムが結婚したなどと聞いたら、僕は耐えられるのかな。
青い空を眺めて長い息を吐く。息を吐き出したと同時に、涙も出た。
この城に戻って来てから、泣いてばかりだ。十六で城を出るまで辛いことがたくさんあったけど、それでもラズールの胸でたまに泣くだけだったのに。リアムと出会ってから僕の涙腺が確実に弱くなった。幸せを知ると涙もろくなると知った。
「きっとリアムのせいだ…」
ふふっと笑って濡れた頬を袖で拭く。両袖を目に押し当てて涙を止めていると、窓に何かが当たる音がした。
2
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
目が覚めたら異世界で魔法使いだった。
いみじき
BL
ごく平凡な高校球児だったはずが、目がさめると異世界で銀髪碧眼の魔法使いになっていた。おまけに邪神を名乗る美青年ミクラエヴァに「主」と呼ばれ、恋人だったと迫られるが、何も覚えていない。果たして自分は何者なのか。
《書き下ろしつき同人誌販売中》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる