銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

文字の大きさ
上 下
88 / 451

52

しおりを挟む
 ラズールが運んできた料理を食べ、風呂で身体を洗って用意された服に着替えた。
 ラズールが持ってきたのは、刺繍やレースが施された黒いドレスだ。
 ラズールに手伝ってもらってドレスを着た僕は、鏡に映した自分の姿を見て息を呑んだ。目の前に姉上がいるのかと思った。でも姉上のような優しさはなく、とても冷たい雰囲気だ。
 首元や手首まで伸びたレースが、うまく痣を隠してくれる。僕は男にしては細い腰と手足をしているから、どこからどう見ても女に見える。    
 広がるドレスの裾には、銀糸が埋め込まれているのか、少し動く度にキラキラと輝く。
 僕が無言で鏡を見つめていると、ラズールが後ろに立った。
 鏡越しに目を合わせて会話をする。

「お美しいですよ。銀髪が黒によく映えます」
「そうかな…。まるで死神みたいだ」
「またそのようなことを言う。あなたを見た隣国の王子が、どう反応するのか気になります」
「大丈夫だよ。僕が完璧にフェリのフリをするから」
「しかし、王子はあなただと気づくのではないですか」
「僕を見てよ。男に見える?」
「いえ…」
「リアムには気づかせないから…だから、おまえは黙って見てて」
「わかりました。しかし、もし隣国の王子があまりにもしつこく何か言ってきましたら、フィル様は亡くなられたと伝えればよろしいかと」
「そうだね…わかったよ」
 
 僕は視線を逸らせると、俯いて小さく息を吐いた。
 今からリアムに会う。手を伸ばせば触れることのできる距離に愛しい人がいて、僕は平静でいられるだろうか。リアムに名前を呼ばれでもしたら、走り寄って飛びついてしまうかもしれない。…ああでも、僕は今、走れないんだった。足首が痛くて歩くのでさえ困難だった。
 僕は小さく首を振る。
 まだこんなことを考えてるなんて、しっかりしろ。僕はフェリ、この国の女王だ。隣国の王子に、毅然とした態度で臨まなければ。
 ラズールが前に来て僕の手を取った。

「そろそろバイロン国の第二王子が繊月の間に入られます。俺達も行きましょう」
「…わかった」
「では…フェリ様」
「ん…」

 僕が両手を上げると、ラズールが軽く抱き上げた。そしてしっかりと抱いて振動を与えないように静かに歩く。
 部屋を出て右に廊下を進み、突き当たりの階段に差しかかる。
 階段を降りる時にラズールの腕に力がこもったように感じた。先ほど僕を突き落としたのは、きっとラズールなりに僕を止めようと必死で手を出してしまったのだろう。
 そう思ってラズールの顔を見ると、ラズールは困ったように微笑んだ。

「…やり過ぎたと反省してます。手を出した俺を恨んでますか」
「どうして?」
「あなたが悲しそうな目をしているから」
「そうなの?自分ではわからないよ。それに僕は恨みも怒りもしてないよ。むしろ止めてくれて感謝してる。僕は国のためにまだ何もできてないのに、責任を放棄するところだった」
「…あなたは本当にお優しい。俺はあなたのためなら何でもします」
「頼りにしてる」
「はい」

 話している間に階段を降りて左へ進み、長い廊下の途中で止まる。左側に扉があり、ラズールが足を止めたと同時に、扉が向こう側へと開いた。

 
 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...