銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 ラズールが僕の傍にしゃがむと、困った顔で僕の髪を撫でた。
 僕は頭の中がぐしゃぐしゃになってしまい、ポロポロと涙を流す。

「フィル様っ、大丈夫ですか!ラズールおまえっ、なんてことをしたんだ!フィル様に向かって魔法を使いやがって!」

 トラビスが駆け下りてきて、ラズールの手を跳ね除け怒鳴った。そして僕を庇うように僕とラズールの間に身体を割り込ませる。
 ラズールはゆっくり立ち上がると、トラビスに払われた手を軽く振った。

「少し背中を押しただけだ。フィル様、先ほどのあなたはかなり混乱されていたようですので、言葉で言っても聞かなかったでしょう?だから少々、手荒なマネをしてしまいました。申し訳ごさいません」
「だからと言って、おまえは王に怪我をさせたのだぞ!」

 まだ泣き続ける僕に代わって、トラビスが怒って問い詰める。
 しかしラズールは、トラビスではなく僕に向かって話を続けた。

「今回のことでは、どんな罰でも受けます。ですが、これからも俺は、あなたの正体がバレないようにするためにはなんでもします。フィル様…約束したではないですか。あなたが身代わりであることは絶対に知られてはならないのですよ、特に他国の者には」
「わかってる…」

 僕は床に落ちる雫を見つめながら消え入りそうな声で答えた。
 わかってる、頭ではわかってたけど…身体が勝手に動いてしまったんだ。リアムを求めてしまったんだ。
 ラズールが静かな声で続ける。

「それとも、国と民を捨てて隣国の王子を選びますか。あなたがどうしてもそうしたいと言うのなら…俺はもう止めません。今ここで、決めてください」
「ラズール!フィル様を追い詰めるようなことをするなっ」

 ドン!という音がして、僕は顔を上げた。
 トラビスがラズールの上着の襟を掴んで壁に押しつけている。
 僕はシャツの袖で顔を拭くと、立ち上がろうとした。

「いた…っ」
「フィル様っ」

 すぐにトラビスが近寄って膝をつき、心配そうに覗き込んでくる。
 僕は右の足首に触れて顔を歪めた。
 階段から落ちた時に捻ったのだろうか。それととも骨が折れた?どちらにしろ困ったことになった。それにしても、剣が刺さらない化物のようになってしまった身体なのに、こんなに簡単に足を負傷するんだと、思わず乾いた笑いがもれた。
 その時、足首を押さえる僕の手に大きな手が重なった。
 僕は反射的に前を向く。
 僕の前で膝をついたラズールが、足首を見た後に僕の目を見て、もう片方の手で僕の頬に触れた。

「…この足では、長旅は難しいですよ」
「わかってるよ…。僕は行かない…どこにも行かない。この城に残って国も民も守る…。もう勝手なことは…しない」
「それでは、今度こそ覚悟ができましたか?」
「うん…」
「ありがとうございます。では部屋に戻って手当をしましょうか。その様子では骨は折れてませんよ。数日は痛みを伴って腫れるでしょうが、問題ありません。俺があなたの身の回りの世話をしますので…昔のように」
「…わかった」

 僕が頷いて両手を伸ばすと、ラズールが軽々と抱き上げた。
 階段をのぼり始める僕達を見て、トラビスが何か言いたそうな顔をしている。
 
「トラビス、騒がせて悪かった。もう大丈夫だから、おまえは持ち場に戻れ」
「しかし…」
「それから、今後は僕の部屋に来てはダメだよ。わかった?」
「かしこまりました…」

 脱力したように頭を下げて、トラビスが反対方向に去って行く。
 僕はラズールの肩に置いていた手を首に回すと、ラズールの肩に顔を埋めて目を閉じた。


 


 
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