銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 そんな…姉上を助けられなかった…。僕はなんて役立たずなんだ。ごめんなさい…姉上。あなたには元気になって、幸せな人生を送ってもらいたかったのに…ごめんなさい。国民にも謝らなければ。女王がいなくなった我が国は、やがて滅んでしまうだろう。みんな…本当にごめんなさい…。
 周りが騒がしいな…。この部屋にいる皆が集まっている。何かを相談しているのか。相談したところでもうどうしようもないのに。唯一の希望だった姉上が死んでしまった。僕は何もできなかった。蔦のような痣が広がって、化け物のような姿になっただけだった。ああ…僕はどうすれば死ねるのかな。僕はこの先どうすればいいのかな。ねぇ、誰か教えてよ。…リアムに会いたい。リアムの笑顔が見たい。リアムに抱きしめてもらいたい。もう…疲れちゃったよ。

「フィル様」

 名前を呼ばれてゆっくりと顔を上げて横を向く。
 大宰相とその後ろに大臣達が立ち、ラズールが僕の後ろで膝をついて肩を抱いている。トラビスの姿は見えないけど、たぶんまた外を見張っているのだろう。

「なに…。僕を殺す方法がわかったの?もう害にしかならないのだから、早く…殺して…」
「いえ、フィル様を殺しはしません。今から話すことをよく聞いていただきたい」
「殺さない…?どうして…」
「フィル様、どうか話を聞いてください。あなたはそれを必ず実行しなければなりません」
「ラズール…」

 僕の耳元で、ラズールが厳しい声を出す。あまり聞いたことのない緊張した声だ。
 僕は振り返ってラズールを見た。
 ラズールは、険しい顔をして僕を見つめている。
 大宰相が僕の傍で膝をつき頭を下げた。

「フィル様、フェリ様は亡くなられてはおりません。今ここで亡くなったのは、フェリ様お付きの使用人ということに致します。そしてこの先、幼い頃からそうされてきたように、フィル様、あなたがフェリ様の身代わりとして女王となるのです」
「なに…を、言ってる…」
「それしか我が国を救う方法はございません。どうかお願い致します。もはや国を救えるのはフィル様だけなのです」

 僕は唇を震わせながら、声を絞り出す。

「でも…僕は男だ…。王には…なれない」
「大丈夫です。遠い昔に、どうしても女に恵まれなかった時代に、男が王になった話が伝わっております。ただし、男は幼少から女として育てられ、死ぬまで女のフリをしていたそうです。ですから、フィル様もこの先の一生を、フェリ様のフリをしていただきたいのです」
「そんな…こと…」

 そんなことできない。したくない。それならば死んだ方が良かった。僕の人生はどうしてこうも辛い方へと向かうのか。
 俯き震える僕の背中を、ラズールが抱きしめながら言う。

「フィル様、あなたがやらなければならないのですよ」
「無理だ…やりたくない。それに僕は…王の器じゃない。できないよ…」
「大丈夫です。あなたならできます。俺がずっと支えます。傍にいます。だからどうか女王になると仰ってください…」

 ラズールの声が震えている。僕のために苦しんでくれているのだろうか。そう思ってチラリと横目で見たラズールの顔が、なぜか嬉しそうに見えた。


 
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