78 / 451
42
しおりを挟む
三人の大臣達がトラビスに近づき、ラズールから引き剥がした。
トラビスは身体を捻って暴れながら、なおも言い募る。
「ラズールっ、おまえは悔しいのだろう!ずっと大切に世話をしてきたフィル様を隣国の王子に取られてっ!その腹いせにフィル様を殺すのかっ!」
「…違っ」
「そうだよ」
ラズールに被せるように、僕が返事をする。
ラズールもトラビスも驚いて、こちらを振り向き凝視した。
「ラズールはリアムのことが気に入らない。そのリアムに好意を寄せる僕を許せないから殺すというなら、それでいいんだ。むしろそうでも思わないと、ラズールは僕を殺せないだろ?」
「フィル様…」
「しかしっ」
「トラビスはもう黙れ。これは僕の命令だ。これ以上邪魔をするなら追い出すが?」
「…申し訳…ありません。俺は、何が起こるのかを…見届けたいです…」
「ならば引き続き外を見張れ」
「はい…」
部屋に静寂が戻る。
ようやく僕の役目を果たせる。そう思っていたのに、今度は大宰相が邪魔をした。
「フィル様、お聞きしてもよろしいですか?隣国の王子とは、バイロン国のことですか?その王子と共にバイロン国の王城にいたとトラビスから聞いております。その方がリアム…様という方ですか?一体どういうご関係で?」
「おまえ達、本当にうるさいね。もうどうでもいいじゃないか。僕は今から消えるんだから。もしリアムが僕を訪ねて来たら、知らぬ存ぜぬで通せばいい。もういいかな?僕は早く姉上を助けたいんだ」
「はっ、申し訳ありません」
僕は大きく息を吐き出すと、ラズールの前で両手を広げた。
「ラズール、僕を刺した後、何をするかわかってるよね?姉上のことを頼んだよ」
「わかってますが、それをするのはトラビスに任せたい。俺はすぐにフィル様の後を追わなければなりませんので」
「僕は姉上を頼むと言ったのに…おまえはばかだね」
「そうですよ。ずっと一緒だったのですから、ご存知でしょう?」
「いいよ…おまえの好きにしろ」
「かしこまりました」
ラズールが、剣を持つ右手を後ろに引く。そして僕の心臓めがけて突き出した。剣先が僕の服を裂き肌に触れる。そして肉を貫くと思ったのに、なぜかラズールの動きがピタリと止まった。
僕はラズールを睨みながら叫んだ。
「何をやってる!早くしろっ」
「…申しわけ…剣が刺さらないのですっ」
「なにを言ってるの?」
ラズールの顔に汗が流れ落ちる。
部屋は暖められているとはいえ、汗を流すほどではない。
僕はため息をつくと、ラズールに向かって一歩踏み出した。しかし僕が進むごとにラズールが後ろに下がる。
「おまえ…ふざけてるの?」
「違いますっ。本当に剣が刺さらないのです!」
「まさか…」
僕は剣先を見た。
僕の身体にある蔦のような痣が、剣先に絡みついている。
「なんで…?ラズールっ、僕の首をはねろ!早くっ」
「はっ!」
僕は髪を右側へと流して首をさらした。
ラズールが剣を引き僕の首へと振り下ろす。しかし先ほどと同じように僕の首が斬れない。
僕は泣きそうになりながらラズールを見た。
「どうなってる…?」
「フィル様…首まで痣が広がってます。その痣が首を斬ることを阻んでます…」
「どういうこと…?僕は死ねない?」
僕は脱力してベッドに手をついた。その時、微かな声が聞こえた。
「フィ…ル…」
僕は驚き、声がした方へと顔を向ける。
「姉上…!」
姉上が左手をこちらに向けて、鼻と口から血を流していた。
トラビスは身体を捻って暴れながら、なおも言い募る。
「ラズールっ、おまえは悔しいのだろう!ずっと大切に世話をしてきたフィル様を隣国の王子に取られてっ!その腹いせにフィル様を殺すのかっ!」
「…違っ」
「そうだよ」
ラズールに被せるように、僕が返事をする。
ラズールもトラビスも驚いて、こちらを振り向き凝視した。
「ラズールはリアムのことが気に入らない。そのリアムに好意を寄せる僕を許せないから殺すというなら、それでいいんだ。むしろそうでも思わないと、ラズールは僕を殺せないだろ?」
「フィル様…」
「しかしっ」
「トラビスはもう黙れ。これは僕の命令だ。これ以上邪魔をするなら追い出すが?」
「…申し訳…ありません。俺は、何が起こるのかを…見届けたいです…」
「ならば引き続き外を見張れ」
「はい…」
部屋に静寂が戻る。
ようやく僕の役目を果たせる。そう思っていたのに、今度は大宰相が邪魔をした。
「フィル様、お聞きしてもよろしいですか?隣国の王子とは、バイロン国のことですか?その王子と共にバイロン国の王城にいたとトラビスから聞いております。その方がリアム…様という方ですか?一体どういうご関係で?」
「おまえ達、本当にうるさいね。もうどうでもいいじゃないか。僕は今から消えるんだから。もしリアムが僕を訪ねて来たら、知らぬ存ぜぬで通せばいい。もういいかな?僕は早く姉上を助けたいんだ」
「はっ、申し訳ありません」
僕は大きく息を吐き出すと、ラズールの前で両手を広げた。
「ラズール、僕を刺した後、何をするかわかってるよね?姉上のことを頼んだよ」
「わかってますが、それをするのはトラビスに任せたい。俺はすぐにフィル様の後を追わなければなりませんので」
「僕は姉上を頼むと言ったのに…おまえはばかだね」
「そうですよ。ずっと一緒だったのですから、ご存知でしょう?」
「いいよ…おまえの好きにしろ」
「かしこまりました」
ラズールが、剣を持つ右手を後ろに引く。そして僕の心臓めがけて突き出した。剣先が僕の服を裂き肌に触れる。そして肉を貫くと思ったのに、なぜかラズールの動きがピタリと止まった。
僕はラズールを睨みながら叫んだ。
「何をやってる!早くしろっ」
「…申しわけ…剣が刺さらないのですっ」
「なにを言ってるの?」
ラズールの顔に汗が流れ落ちる。
部屋は暖められているとはいえ、汗を流すほどではない。
僕はため息をつくと、ラズールに向かって一歩踏み出した。しかし僕が進むごとにラズールが後ろに下がる。
「おまえ…ふざけてるの?」
「違いますっ。本当に剣が刺さらないのです!」
「まさか…」
僕は剣先を見た。
僕の身体にある蔦のような痣が、剣先に絡みついている。
「なんで…?ラズールっ、僕の首をはねろ!早くっ」
「はっ!」
僕は髪を右側へと流して首をさらした。
ラズールが剣を引き僕の首へと振り下ろす。しかし先ほどと同じように僕の首が斬れない。
僕は泣きそうになりながらラズールを見た。
「どうなってる…?」
「フィル様…首まで痣が広がってます。その痣が首を斬ることを阻んでます…」
「どういうこと…?僕は死ねない?」
僕は脱力してベッドに手をついた。その時、微かな声が聞こえた。
「フィ…ル…」
僕は驚き、声がした方へと顔を向ける。
「姉上…!」
姉上が左手をこちらに向けて、鼻と口から血を流していた。
12
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる