銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 三人の大臣達がトラビスに近づき、ラズールから引き剥がした。
 トラビスは身体を捻って暴れながら、なおも言い募る。

「ラズールっ、おまえは悔しいのだろう!ずっと大切に世話をしてきたフィル様を隣国の王子に取られてっ!その腹いせにフィル様を殺すのかっ!」
「…違っ」
「そうだよ」

 ラズールに被せるように、僕が返事をする。
 ラズールもトラビスも驚いて、こちらを振り向き凝視した。

「ラズールはリアムのことが気に入らない。そのリアムに好意を寄せる僕を許せないから殺すというなら、それでいいんだ。むしろそうでも思わないと、ラズールは僕を殺せないだろ?」
「フィル様…」
「しかしっ」
「トラビスはもう黙れ。これは僕の命令だ。これ以上邪魔をするなら追い出すが?」
「…申し訳…ありません。俺は、何が起こるのかを…見届けたいです…」
「ならば引き続き外を見張れ」
「はい…」

 部屋に静寂が戻る。
 ようやく僕の役目を果たせる。そう思っていたのに、今度は大宰相が邪魔をした。

「フィル様、お聞きしてもよろしいですか?隣国の王子とは、バイロン国のことですか?その王子と共にバイロン国の王城にいたとトラビスから聞いております。その方がリアム…様という方ですか?一体どういうご関係で?」
「おまえ達、本当にうるさいね。もうどうでもいいじゃないか。僕は今から消えるんだから。もしリアムが僕を訪ねて来たら、知らぬ存ぜぬで通せばいい。もういいかな?僕は早く姉上を助けたいんだ」
「はっ、申し訳ありません」

 僕は大きく息を吐き出すと、ラズールの前で両手を広げた。

「ラズール、僕を刺した後、何をするかわかってるよね?姉上のことを頼んだよ」
「わかってますが、それをするのはトラビスに任せたい。俺はすぐにフィル様の後を追わなければなりませんので」
「僕は姉上を頼むと言ったのに…おまえはばかだね」
「そうですよ。ずっと一緒だったのですから、ご存知でしょう?」
「いいよ…おまえの好きにしろ」
「かしこまりました」

 ラズールが、剣を持つ右手を後ろに引く。そして僕の心臓めがけて突き出した。剣先が僕の服を裂き肌に触れる。そして肉を貫くと思ったのに、なぜかラズールの動きがピタリと止まった。
 僕はラズールを睨みながら叫んだ。

「何をやってる!早くしろっ」
「…申しわけ…剣が刺さらないのですっ」
「なにを言ってるの?」

 ラズールの顔に汗が流れ落ちる。
 部屋は暖められているとはいえ、汗を流すほどではない。
 僕はため息をつくと、ラズールに向かって一歩踏み出した。しかし僕が進むごとにラズールが後ろに下がる。

「おまえ…ふざけてるの?」
「違いますっ。本当に剣が刺さらないのです!」
「まさか…」

 僕は剣先を見た。
 僕の身体にある蔦のような痣が、剣先に絡みついている。

「なんで…?ラズールっ、僕の首をはねろ!早くっ」
「はっ!」

 僕は髪を右側へと流して首をさらした。
 ラズールが剣を引き僕の首へと振り下ろす。しかし先ほどと同じように僕の首が斬れない。
 僕は泣きそうになりながらラズールを見た。

「どうなってる…?」
「フィル様…首まで痣が広がってます。その痣が首を斬ることを阻んでます…」
「どういうこと…?僕は死ねない?」

 僕は脱力してベッドに手をついた。その時、微かな声が聞こえた。

「フィ…ル…」

 僕は驚き、声がした方へと顔を向ける。
 
「姉上…!」

 姉上が左手をこちらに向けて、鼻と口から血を流していた。

 



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