銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 食事を終えた後に、部屋に隣接した風呂場で身体を洗って出てくると、机の上の料理は片付けられていた。
 窓から外を眺めていたラズールが、僕に近寄り僕の手から布を取る。

「こちらへ。俺がやります」
「ん…」

 ラズールに手を引かれてベッドの端に座る。
 ラズールは僕の前に立つと、髪を丁寧に拭き始めた。

「久しぶりですね。あなたの髪にこうして触れるのは」
「ん…そうだね。姉上にはしてないの?」
「フェリ様にはお付きの侍女がおりますから。俺は命令された雑用をこなしているだけです」
「そうなの?側近になったと聞いたけど…」
「側近になれと前王に命じられましたが、断りました。ですがよくフェリ様に呼ばれてましたので、周りから見れば側近だと勘違いされていたかもしれません」
「どうして断ったの?」
「俺はフィル様の側近だからですよ」
「僕は城からいなくなってたのに」

 ラズールが布を置いて僕の髪を櫛で梳かす。丁寧に梳かし終えると、僕の前で片膝をつき両手で僕の手を握った。

「次は俺が質問してもいいですか?」
「いいよ。何が聞きたいの?」
「バイロン国の第二王子のことです。トラビスから話を聞きました。第二王子は、城から出されたあなたを救い、トラビスに殺されそうになったあなたを救った。共にデネス大国にまでも行かれたそうですね。バイロンの名を記したあなた用の通行証まで作って。そして自国の王城に連れ帰った。王子は、どういう意図であなたの傍にいたのです?」
「ラズール…」

 ああそうか。ラズールが怒っている理由がわかった。リアムのことだ。リアムを不審に思っているんだな。バイロン国とは仲が悪いわけではないけど親密でもない。それに数年に一度は、国境近くで小競り合いが起きている。だから僕が利用されたのではないかと心配してるんだな。
 僕はラズールにだけは全てを知ってもらいたいと思い、リアムと出会ってからのことを話した。リアムと僕が想い合っていることも話した。
 話を進めていくうちに、僕の手を握る力が強くなる。リアムが自国の王城に僕を連れ帰ったのは、妻にするためだと話した時には、手が潰れそうなほど強く握りしめられて、僕は思わず叫んだ。

「痛い!手っ、離して」
「申し訳ありません…」

 ラズールは謝って、手の力を緩める。だけど握りしめた手は離してくれない。
 僕は溜息をつくと、ラズールに顔を寄せた。

「ほら、やっぱり怒ってる。なに?リアムを疑ってるの?リアムは僕を利用したりしないよ。本当に僕のことを大切に思ってくれてる」
「…バイロン国の王族は、男を妻にできるのですか?」
「うん、できるんだって。それにリアムは第二王子だから、自由にできるって話してた」
「そうですか…あなたが王子の妻に」
「嬉しかったよ。イヴァル帝国ではいらない者だった僕が、妻にと求められて。でも僕にそんな幸せな未来は来ない。少し遠回りしたけど、呪われた子としての責務を果たすよ」
「まだあなたがどうすべきかは決まってません」
「話し合いなんて無意味だし時間の無駄だ。僕は母上から姉上のことを頼まれてる。だから明日、姉上の前で、おまえがその剣で僕の胸を貫いて」
「フィル様」
「おまえがどうしてもできないと言うなら、トラビスに頼むから」

 ラズールが俯き僕の両手に額を当てる。しばらくそのままで動かない。あまりにも動かないから気になって顔を近づけた。するといきなりラズールが顔を上げたせいで、至近距離で目が合った。
 僕の顔が映るラズールの琥珀の瞳に、もう迷いはなかった。

「わかりました…。俺があなたを殺します。ですが俺はあなたの傍を離れません。ずっと共にいます。共にいることを許可してください。よろしいですね?」
「…わかったよ。好きにしろ」
「はい」

 ラズールが少しだけ目を細める。そして立ち上がると僕に横になるように言い、僕の肩までシーツをかけて「明日の朝に来ます」と言って出て行った。
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