銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 ラズールは、僕を隠すように一歩前に出てトラビスと対峙する。
 しばらくして先に口を開いたのはトラビスだった。

「ふん、新王の側近だからといって態度が横柄ではないか?ラズール、おまえが大宰相の命令に否と答えたのだ。自分の口で明日にしてくれと報告してこい」
「わかった。後で行く」
「は?今すぐだ」
「無理だな。俺はまだフィル様と話し中だ。だからおまえは邪魔だ。早く消えろ」

 ラズールは低い声で淡々と言いたいことを言うと、トラビスの目の前で勢いよく扉を閉めて鍵をかけた。
 外でトラビスが「ラズール!」と叫んで扉を叩いている。

「トラビス!無礼者めがっ!ここはフィル様の部屋だぞっ」

 ラズールが扉の外に向かって怒鳴ると、「くそっ」と悪態をつく声がした後に、トラビスが離れていく足音が聞こえた。
 僕は目の前の背中を見つめる。そして荒い呼吸をして上下に肩を動かす背中に、額をつけた。

「なに勝手なことしてるの…。僕は姉上の部屋に行くつもりだったのに」
「ダメです。今はまだ…ダメです」
「おまえ、どうしたの。こんな最後になって我儘ばかり言うんだな」
「最後って言うなっ」

 ラズールの大きな声に、僕の身体がビクンと跳ねた。
 なんだよ…いつも優しかったのに、どうしてそんなに怒ってばかりいるの。
 額をつけた背中が震えている。荒い呼吸のせいじゃない。もしかして…。

「…泣いてるの?」
「泣いてません…。俺は、人前で泣いたりしません」
「うそつき。泣いてるじゃないか」
「あなたはなぜ、泣かないのです?殺されることが怖くないのですかっ」
「怖いよ。でも、姉上やラズールがいなくなることの方が怖いから…だから大丈夫」
「なにが大丈夫ですか…大丈夫なわけがないっ…」
「もう、そんなに怒らないで。ほら、泣き止んでよ」
「俺は泣いてません…っ」

 突然ラズールが振り返り、僕を強く抱きしめた。僕の肩に顔を埋めたまま動かない。
 僕もラズールの気が済むまで、動かなかった。
 しばらくしてラズールが顔を上げ、鼻をすすりながら「大宰相に話してきます」と部屋を出て行った。
 出て行く際に「鍵をかけるように」と言われたので、鍵をかける。そしてベッドに腰掛けてぼんやりとしていたが、ひどく疲れた気がして横になり目を閉じた。
 一日、僕の命が伸びた。せっかく覚悟を決めていたのに、なんだか気が抜けてしまった。それにラズールが、あんなに反対するとは思わなかったな。相変わらず僕を大切に思ってくれて嬉しい。でもね、未練が残ってしまうから、もうやめて。明日になったら、ちゃんと僕を殺して。
 ラズールが戻って来るまでは起きていようと頑張っていたけど、よほど疲れていたらしく、僕はいつの間にか深く眠ってしまった。
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