銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 ラズールも顔を上げて、震える手で僕の頬に触れる。
 ラズールのまつ毛が濡れている。
 僕は驚きすぎて涙が止まった。

「ラズールの泣いてる顔…初めて見たよ」
「…俺も、人前で泣いたのは初めてです」
「どうして泣いてるの…僕のせい?」
「はい…。あなたに嫌いだと言われたので…」

 僕は頬に触れる大きな手に手を重ねると、頬をすり寄せた。

「嘘だよ…ごめん…」
「本当に?」
「僕は、何をされたとしても、おまえを嫌いになんてなれないから」
「…よかった、安心しました」

 ラズールが息を吐いて優しく笑う。
 ああ…僕の不安を消し去ってくれるいつもの顔だ。
 僕が黙ってラズールを見つめていると、ラズールが袖で僕の顔を拭いてくれた。

「しばらく会わない間に、また美しくなられましたね」
「なに言ってるの…そんなことない」
「いえ、あなたのことを一番に見てきたのですからわかります」
「ばかラズール…」
「少し、口が悪くなりましたか?」
「嫌になった?」
「いえ、あなたに罵られるのも悪くない」
「なにそれ…。ラズールと話してたら緊張がとけちゃった。ねぇ、この部屋に母上がいるんだろ?会ってもいい?」
「はい。ですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫…そのために戻ってきたんだから」
「フィル様…」

 僕はラズールの横を通って、部屋の奥へと進む。奥にあるベッドに、たくさんの花に囲まれた母上が寝かされていた。
 亡くなってから十日は経っているのに生前と変わらぬ美しい顔をしている。防腐の魔法を毎日かけられているのだ。ああそうか、ラズールは魔法をかけるためにこの部屋にいたのか。
 僕は黙って母上の顔を見つめる。
 僕と会う時は、いつも怖い顔をしていた母上。だけど今は、とても穏やかな顔をしている。

「母上…ただ今戻りました。勝手をしてごめんなさい」

 そっと母上に手を伸ばそうとして、思いとどまった。今の僕の身体には、おぞましい痣がある。呪われた身体で母上に触れてはいけない気がする。

「ラズール」
「はい」

 僕の後ろに控えるラズールに、母上を見つめたまま聞く。

「母上の顔は穏やかに見える。苦しまずに亡くなったの?」
「俺は見たわけではないのでよくわかりませんが…。フェリ様とお会いしている時に、いきなり倒れられたそうです」
「病気?前から悪かった?」
「さあ?ですが…」

 ラズールが言い淀んだので、僕は振り返ってラズールを見上げた。

「なに?正直に話して」
「はい…。フィル様が城を出られてから、少しずつ体調が悪くなっていたようです」
「そう…」

 母上が亡くなったのは、やはり僕のせいかもしれない。僕の身体に痣が現れた日と同じ日に、母上が亡くなった。僕が逃げたことで母上が亡くなったのだとしたら、母上を殺したのは僕だ。

「フィル様、たまたまそうなっただけです。どうか気になさらないでください」

 まるで僕の心を読んだかのように、ラズールが慰める。
 僕は落としていた視線を上げると、もう一つ気になっていたことを聞いた。
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