銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 僕は驚いて手を振りほどこうと腕を振る。だけどトラビスの力が強くてビクともしない。

「なっ…!離せっ」
「お静かに。今から人が増えて混雑してきます。はぐれてしまうと困ります。それに人混みに紛れて人さらいがいないとも限らない。ここを出る間だけ、我慢してください」

 真剣に話すトラビスの目を睨みながら「わかった」と頷く。
 トラビスは僕の左手を握り直すと、たくさんの人が並ぶ行列の後ろに並んだ。



「無事に王都を出られてよかったです。馬を休ませたら一気に国境に向かいます」
「うん…」

 僕は頷くと、トラビスに渡された革袋から水を飲む。
 王都の門は、誰に見咎められることもなく出られた。トラビスが商人で僕がその妹だと、門番は信じたらしい。
 門を出るとすぐに馬に乗り、半刻ほど走って森に着いた。この森の中には小さな湖があり、湖の畔は日当たりがよく暖かい。
 馬を休憩させながら僕達も休んで、これからの予定を聞いた。
 城に残してきた兵達は、しばらくはそのまま残るらしい。兵の中にはトラビスと背格好がよく似た者がいて、その者がトラビスのフリをする。だからすぐには、トラビスが僕を連れて逃げたとは気がつかれない。もし気づかれたとしても、王城内で僕の存在はまだ多くの人には知られていない。なので僕がいなくなったとわかっても騒ぎにならない。やっと王城に戻ったリアムも、王子という立場的に、今は身軽には動けないだろう。
 そんな内容をトラビスが淡々と話す。

「バイロン国の王城の事情をよく知ってるね」
「数刻、注意深く様子を見ていればわかります」
「ふーん」
「しかし第二王子はなぜ、あなたを王城に連れて帰ったのですか?もしや人質に…」
「…違う、リアムは友達だよ。僕が困ってたから一緒に連れてきてくれたんだよ」
「ではなぜ、あなたはその友の元から逃げようとしてたのですか?第二王子はあなたがイヴァル帝国の王子だと知っていたのでしょう?逃げなくとも親が亡くなったから帰りたいと言えばよかったのでは」
「うるさいな、黙れ。僕とリアムのことに口を挟むな」
「…申しわけございません」

 僕は抱えていた膝に顎を乗せて、水面を見つめる。少ししてボソボソと話し出した。

「リアムは僕の境遇を知ってる。身体に現れた痣も見ている。だから僕が国に帰ると言ったら反対する。でも姉上が心配だから僕は帰りたかった。それだけだよ…」
「バイロン国の王子に我が国の内情を話されていたのですか?」
「いけない?僕はいらない者として城を追い出され、しかも殺されかけたんだ。どこにも行く場所がなく頼る相手もいない僕に、リアムは優しくしてくれた。はっきり言ってイヴァル帝国の者達よりも信頼できる。それにリアムは誰にでも話したりしないよ」
「ですが」
「おまえは本当にうるさい。もう聞くな。イヴァルに危険が及ぶことはないから」
「わかりました…あなたがそう仰るなら。ではそろそろ参りましょうか。今から、あまり人の通らない道を進みます。魔物も出ます。ですが必ず俺が守って、無事にあなたを国に連れて帰ります」
 
 言いたいことを言って僕から離れ、馬の元へと向かうトラビスの背中を見て、僕は思わず笑ってしまう。
 殺されるために帰る僕を、必ず守るって矛盾してる。
 でも、殺されるとわかっていても、今は国に帰りたい。姉上に会って顔が見たい。そしてラズールに会って、どうして一緒に来てくれなかったのかを聞きたい。その上で、僕は殺されたいと願っている。
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