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「ふふっ、唯一無二って…。姉上も同じ髪だよ」
「お二方を近くで見たことのある者なら、あなたの方が美しいと知ってます」
「なに言ってるの。おまえは変だよ。見ただろ?僕の身体には醜い痣がある…」
「あなたは美しいです」
トラビスは本当におかしくなったのかと、僕はマントを羽織りながら、溜息をついた。
姉上は僕とそっくりだけど、僕よりも優しい雰囲気で綺麗だ。銀髪も僕と同じで綺麗だ。なのに僕の方が美しいと思うなんて。前にリアムが言ってたけど、イヴァルの王城にいる者は、本当に目が悪いのかもしれない。
考え込む僕の頭に、トラビスがフードを被せると、荷物を馬の背に乗せて「俺の後についてきて下さい」と言う。
馬の手綱を持って歩き出したトラビスの後を、僕もロロの手綱を持ってついて行く。
「どこから外に出るの?」
「正面の門からです。この塀の門の鍵は持っていませんから」
「正面から?でもおまえの通行証でバレるんじゃ…。それに僕の通行証は…」
国境を越える時だけでなく、王都の出入りにも通行証がいる。入る時は王族のリアムが一緒だったから提示する必要はなかった。だけど今は傍にリアムがいない。門を通るためには通行証を提示しなければならない。
一応リアムにもらった通行証は持ってきている。だけどあれには、バイロン国の紋章が記され、しかも僕の名前の後ろにバイロンと書いてあるから、確実に不審に思われる。
そんな僕の不安を払拭するように、トラビスが「大丈夫です」とはっきり言った。
「俺はイヴァル帝国の高官としての正式な通行証の他に、商人としての通行証も所持しています。もちろんあなたの分も」
「…どうしてそんなのを持ってるんだ?」
「その時その場の状況によって使い分けるためです。便利ですから。今回は、あなたがバイロン国にいるかもしれないと思い、念の為にあなたの分も準備していました。持ってきて正解でした」
「ふーん。じゃあ問題なく出れるんだね?」
「はい」
そのために軍服から商人の格好に着替えたのかとトラビスを見上げる。
「なにか?」
「おまえは商人にしては屈強だなぁと思って」
「最近の商人は、こんなもんですよ。盗賊から荷を守るために鍛えてるらしいですから」
「じゃあ貧相な僕はどうするの?商人に見えないけど」
「あなたは商人のフリをしなくても大丈夫です。ただ…」
「なに?」
「俺の…妹のフリをしてください」
「は?」
思わず大きな声を出してしまった。
正門に近づくにつれて人が増えてきている。
僕は慌てて手で口を押さえると、「なぜだ」と低く聞いた。
「いえ…あなたは男というには華奢なのですよ。商人と言っても、たぶん信用してもらえない。俺の弟と言っても、綺麗すぎて信用してもらえない。でも妹なら信用してもらえる。門を抜ける一瞬の間だけです。女のフリをしてもらえませんか?」
「…いいよ、やる。どうせ十六年間、女のフリをしてたんだ」
「…あなたはあなたです。フェリ様と似ても似つかない…」
「黙れ。おまえにそんなことを言われたくない」
「は、申しわけございません」
僕は無言で早足になる。
すぐにトラビスが隣に来て、「俺から離れないでください」と僕の手を掴んだ。
「お二方を近くで見たことのある者なら、あなたの方が美しいと知ってます」
「なに言ってるの。おまえは変だよ。見ただろ?僕の身体には醜い痣がある…」
「あなたは美しいです」
トラビスは本当におかしくなったのかと、僕はマントを羽織りながら、溜息をついた。
姉上は僕とそっくりだけど、僕よりも優しい雰囲気で綺麗だ。銀髪も僕と同じで綺麗だ。なのに僕の方が美しいと思うなんて。前にリアムが言ってたけど、イヴァルの王城にいる者は、本当に目が悪いのかもしれない。
考え込む僕の頭に、トラビスがフードを被せると、荷物を馬の背に乗せて「俺の後についてきて下さい」と言う。
馬の手綱を持って歩き出したトラビスの後を、僕もロロの手綱を持ってついて行く。
「どこから外に出るの?」
「正面の門からです。この塀の門の鍵は持っていませんから」
「正面から?でもおまえの通行証でバレるんじゃ…。それに僕の通行証は…」
国境を越える時だけでなく、王都の出入りにも通行証がいる。入る時は王族のリアムが一緒だったから提示する必要はなかった。だけど今は傍にリアムがいない。門を通るためには通行証を提示しなければならない。
一応リアムにもらった通行証は持ってきている。だけどあれには、バイロン国の紋章が記され、しかも僕の名前の後ろにバイロンと書いてあるから、確実に不審に思われる。
そんな僕の不安を払拭するように、トラビスが「大丈夫です」とはっきり言った。
「俺はイヴァル帝国の高官としての正式な通行証の他に、商人としての通行証も所持しています。もちろんあなたの分も」
「…どうしてそんなのを持ってるんだ?」
「その時その場の状況によって使い分けるためです。便利ですから。今回は、あなたがバイロン国にいるかもしれないと思い、念の為にあなたの分も準備していました。持ってきて正解でした」
「ふーん。じゃあ問題なく出れるんだね?」
「はい」
そのために軍服から商人の格好に着替えたのかとトラビスを見上げる。
「なにか?」
「おまえは商人にしては屈強だなぁと思って」
「最近の商人は、こんなもんですよ。盗賊から荷を守るために鍛えてるらしいですから」
「じゃあ貧相な僕はどうするの?商人に見えないけど」
「あなたは商人のフリをしなくても大丈夫です。ただ…」
「なに?」
「俺の…妹のフリをしてください」
「は?」
思わず大きな声を出してしまった。
正門に近づくにつれて人が増えてきている。
僕は慌てて手で口を押さえると、「なぜだ」と低く聞いた。
「いえ…あなたは男というには華奢なのですよ。商人と言っても、たぶん信用してもらえない。俺の弟と言っても、綺麗すぎて信用してもらえない。でも妹なら信用してもらえる。門を抜ける一瞬の間だけです。女のフリをしてもらえませんか?」
「…いいよ、やる。どうせ十六年間、女のフリをしてたんだ」
「…あなたはあなたです。フェリ様と似ても似つかない…」
「黙れ。おまえにそんなことを言われたくない」
「は、申しわけございません」
僕は無言で早足になる。
すぐにトラビスが隣に来て、「俺から離れないでください」と僕の手を掴んだ。
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