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僕は柄から手を離して、フードを引っ張った。
頭上から、静かな低い声が降ってくる。
「やはりこの城に…あの男の元にいましたか」
「なに?僕を捜してたの?」
「そうです。実は…もうお耳に入ってると思いますが」
「知ってる」
僕はふいっと顔を背ける。しかしトラビスの他に人がいないことがわかって、顔を戻して尋ねる。
「他の者は?一人なの?おまえはここで何をしてたんだ?」
トラビスが「こちらへ」と僕の背中を押して建物の陰に連れて行く。そして大きな身体で僕を隠すようにして、僕を見下ろした。
「離れろ…」
「今はこのままで。誰かに見つかると面倒です。他の者は部屋で待機しています。俺は、部屋に来たバイロン国の第二王子を見てから、あなたがここにいると確信して捜してました」
「そう…、今度こそ僕を殺すために?」
「…いえ。イヴァル帝国に連れて帰るためです。あなたが抵抗しても、縛って連れて帰ります」
僕は睨み上げていた視線を下ろして鼻で笑う。
「ふっ…抵抗なんてするものか。僕も国に帰ろうと、おまえを捜していたんだ。早く僕をイヴァル帝国へ、姉上の所へ連れて行け」
「…かしこまりました」
トラビスの、この前と比べてやけに丁寧な態度を不審に思う。
建物の陰から出て、辺りを警戒しながら僕の隣を歩くトラビスを横目で見て、僕は口を開いた。
「ねぇ、この前の威勢はどうしたの?それにあの時、どうして僕にトドメを刺さなかったの?」
「…あの時は、申しわけありませんでした」
「別に謝らなくていい。おまえの行動は間違っていない」
「いえ…、あなたを刺してしまったことを、俺はひどく後悔したのです」
「どうして?僕を殺す命令を全うしようとしただけだろ?おまえの私恨もあったみたいだし。すぐ殺すのは惜しかった?ジワジワと苦しめて殺したかった?」
「違うっ!違います…。そんなことは微塵も思っていません。今の俺の役目は、ただあなたを無事にイヴァル帝国へと連れ帰ることだけです…」
「ふーん、まあいいけど。帰ったら、今度こそ僕は殺される。殺されるなら、おまえじゃなくラズールがいい…」
「そんなことは…っ」
「もういい。この話は終わりだよ。ところで上手くこの城を出られるの?」
「はい。お任せ下さい」
前に会った時は、あんなにも殺意に満ちた目をしていたのに、今のトラビスは変だ。まるで凪いだ水面のような穏やかな目をして僕を見る。
そんな目で見られることが心地悪くて、僕は口を閉じると前を向き、足を早めた。
頭上から、静かな低い声が降ってくる。
「やはりこの城に…あの男の元にいましたか」
「なに?僕を捜してたの?」
「そうです。実は…もうお耳に入ってると思いますが」
「知ってる」
僕はふいっと顔を背ける。しかしトラビスの他に人がいないことがわかって、顔を戻して尋ねる。
「他の者は?一人なの?おまえはここで何をしてたんだ?」
トラビスが「こちらへ」と僕の背中を押して建物の陰に連れて行く。そして大きな身体で僕を隠すようにして、僕を見下ろした。
「離れろ…」
「今はこのままで。誰かに見つかると面倒です。他の者は部屋で待機しています。俺は、部屋に来たバイロン国の第二王子を見てから、あなたがここにいると確信して捜してました」
「そう…、今度こそ僕を殺すために?」
「…いえ。イヴァル帝国に連れて帰るためです。あなたが抵抗しても、縛って連れて帰ります」
僕は睨み上げていた視線を下ろして鼻で笑う。
「ふっ…抵抗なんてするものか。僕も国に帰ろうと、おまえを捜していたんだ。早く僕をイヴァル帝国へ、姉上の所へ連れて行け」
「…かしこまりました」
トラビスの、この前と比べてやけに丁寧な態度を不審に思う。
建物の陰から出て、辺りを警戒しながら僕の隣を歩くトラビスを横目で見て、僕は口を開いた。
「ねぇ、この前の威勢はどうしたの?それにあの時、どうして僕にトドメを刺さなかったの?」
「…あの時は、申しわけありませんでした」
「別に謝らなくていい。おまえの行動は間違っていない」
「いえ…、あなたを刺してしまったことを、俺はひどく後悔したのです」
「どうして?僕を殺す命令を全うしようとしただけだろ?おまえの私恨もあったみたいだし。すぐ殺すのは惜しかった?ジワジワと苦しめて殺したかった?」
「違うっ!違います…。そんなことは微塵も思っていません。今の俺の役目は、ただあなたを無事にイヴァル帝国へと連れ帰ることだけです…」
「ふーん、まあいいけど。帰ったら、今度こそ僕は殺される。殺されるなら、おまえじゃなくラズールがいい…」
「そんなことは…っ」
「もういい。この話は終わりだよ。ところで上手くこの城を出られるの?」
「はい。お任せ下さい」
前に会った時は、あんなにも殺意に満ちた目をしていたのに、今のトラビスは変だ。まるで凪いだ水面のような穏やかな目をして僕を見る。
そんな目で見られることが心地悪くて、僕は口を閉じると前を向き、足を早めた。
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