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あれは僕が六歳か七歳の頃だ。
庭を散歩している時に蝶々を見つけた。ヒラヒラと飛ぶ姿に惹かれて追いかけているうちに、入っては行けないと言われている奥庭にまで来てしまった。
僕は震えた。このことが知れたら、もっと母上に嫌われる。そう思って急いで戻ろうとした。その時、どこからか話し声が聞こえてきた。
あ、これは母上の声だ。
冷たくされていても、母上のことは好きだ。だから僕はその場にしゃがんで、声を聞き続けた。
しかし話す内容を聞くうちに、僕は悲しくなった。声を上げて泣きたいのを我慢して、そっとその場を離れた。
部屋に戻るとラズールが待っていた。
ラズールの顔を見た途端、僕はラズールに抱きついて泣き出した。
「どうされました?何があったのですか?」
「ラズールっ、ぼくっ、ぼく…」
「俺はどこにも行きませんから、落ち着いたら話してください」
ラズールは椅子に座ると、僕を膝に乗せて抱きしめた。そして自分のシャツが汚れるのも構わずに、ずっと僕の背中を撫でてくれた。
「ふっ…んっ」
「落ち着かれましたか」
「…うん」
「では、話せますか?」
そっと顔を上げた僕の頬を、ラズールが手で優しく拭う。「ひどい顔だ」と困ったように笑って僕の額にキスをした。
「庭から突然いなくなったので、心配しましたよ」
「ごめんね…蝶々を見つけたから追いかけてたの」
「きれいでしたか?」
「うん」
「でもとても心配したので、これからは俺に言ってから追いかけてくださいね」
「うん、わかった」
「それで?」
「行ってはだめって言われてる奥庭に入っちゃったの。そこに母上がいて…」
「見つかったのですかっ?」
「ううん、隠れてたから大丈夫」
「…そうですか」
「でもね、誰かと話してる声が聞こえて…。僕、なんとなく聞いたことあるから知ってたけど、僕は…呪われた子だから邪魔だって。生まれた時にすぐに消しておけば、フェリが病気になることはなかったのにって。僕…邪魔なの?僕のせいで姉上は病気なの?僕がいなくな…」
「違う!」
「…ラズール?」
「違う!あなたは呪われた子などではないっ」
ラズールがとても強く僕を抱きしめた。
苦しくてラズールの胸を押そうとして、僕はラズールが震えていることに気づいた。
「ラズール…どうしたの?苦しいの?」
「はい…。俺は、あなたが悲しんでいる姿を見ると苦しいのです…。いいですか、フィル様。俺が今から話すことをよく覚えておいてください。確かに我が国には、呪われた子の言い伝えがあります。しかし呪われた子には、身体のどこかに蔦のような痣があるそうですよ。でもあなたの身体には何もないでしょう?真っ白で滑らかで、とても美しい身体です。だからフィル様は、呪われた子ではありません。全くの嘘ですよ」
「そうなの?」
「そうです。俺が断言します。フィル様は、誰よりも美しいお方です。さ、安心しましたか?」
「うん…」
「よかった。安心したらお腹が空きませんか?先ほど侍女がケーキを持ってきたのです。ちゃんと毒味も済ませてます。一緒に頂きましょう」
「うんっ!いっぱい食べていい?」
「もちろん」
勢いよく顔を上げて笑う僕の髪を、ラズールは何度も何度も撫でてくれた。「あなたは俺の天使です」と微笑んで。
庭を散歩している時に蝶々を見つけた。ヒラヒラと飛ぶ姿に惹かれて追いかけているうちに、入っては行けないと言われている奥庭にまで来てしまった。
僕は震えた。このことが知れたら、もっと母上に嫌われる。そう思って急いで戻ろうとした。その時、どこからか話し声が聞こえてきた。
あ、これは母上の声だ。
冷たくされていても、母上のことは好きだ。だから僕はその場にしゃがんで、声を聞き続けた。
しかし話す内容を聞くうちに、僕は悲しくなった。声を上げて泣きたいのを我慢して、そっとその場を離れた。
部屋に戻るとラズールが待っていた。
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「ふっ…んっ」
「落ち着かれましたか」
「…うん」
「では、話せますか?」
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「きれいでしたか?」
「うん」
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「うん、わかった」
「それで?」
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「でもね、誰かと話してる声が聞こえて…。僕、なんとなく聞いたことあるから知ってたけど、僕は…呪われた子だから邪魔だって。生まれた時にすぐに消しておけば、フェリが病気になることはなかったのにって。僕…邪魔なの?僕のせいで姉上は病気なの?僕がいなくな…」
「違う!」
「…ラズール?」
「違う!あなたは呪われた子などではないっ」
ラズールがとても強く僕を抱きしめた。
苦しくてラズールの胸を押そうとして、僕はラズールが震えていることに気づいた。
「ラズール…どうしたの?苦しいの?」
「はい…。俺は、あなたが悲しんでいる姿を見ると苦しいのです…。いいですか、フィル様。俺が今から話すことをよく覚えておいてください。確かに我が国には、呪われた子の言い伝えがあります。しかし呪われた子には、身体のどこかに蔦のような痣があるそうですよ。でもあなたの身体には何もないでしょう?真っ白で滑らかで、とても美しい身体です。だからフィル様は、呪われた子ではありません。全くの嘘ですよ」
「そうなの?」
「そうです。俺が断言します。フィル様は、誰よりも美しいお方です。さ、安心しましたか?」
「うん…」
「よかった。安心したらお腹が空きませんか?先ほど侍女がケーキを持ってきたのです。ちゃんと毒味も済ませてます。一緒に頂きましょう」
「うんっ!いっぱい食べていい?」
「もちろん」
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