銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

文字の大きさ
上 下
45 / 451

9

しおりを挟む
 少し急になった斜面を登り目の前が開けた瞬間、轟音と共に水しぶきが飛んできた。崖の向こう側に大きな滝が見える。
 イヴァル帝国の王都の周りには石でできた高い壁がある。その壁ほどもある高さから大量の水が流れ落ちている様は、圧巻だ。
 
「すごい…」

 僕は繋いでいた手を離して、滝に一歩近づいた。
 途端に後ろから抱きとめられる。

「危ないぞ」
「すごい…、ねぇすごいよ!」
「ああ。俺もこんなに大きな滝は初めて見た」
「リアムは他の滝を見たことがあるの?」
「バイロンにも幾つかあるからな。また連れて行ってやる」
「うんっ」

 僕は嬉しくて興奮して、振り返るなり抱きついた。腕に力を込めるとリアムも強く抱きしめてくれる。
 初めて目にした景色に感動して、幸せに満たされて嬉しくて、また涙が溢れた。

「フィー、泣いてるのか?」
「うん…っ」
「どうした?」
「僕…辛くても泣くの我慢してたのに…幸せだとすぐに涙が出てくる…」
「そうか。いいぞ、いつでも泣け。ただし俺の前だけな」
「うん…」

 幸せな気持ちになるのはリアムが傍にいる時だから、リアムの前でしか泣かないよ。
 そう言おうとした時、またもや胸が痛くなった。痛みで思わず顔が歪む。
 僕は顔を見られたくなくて、リアムの胸に額を押しつけた。

「おまえは可愛いな。もっと甘えろよ」
「ん…」

 リアムは僕の不調に気づいていない。気づかれてはいけない。心配をかけさせてしまう。
 それにしてもこれはどういうことだろう。僕は何か胸の病気なのだろうか?でも僕は姉上と違って健康だ。今まで毒を喰らって寝込むことはあっても、病気をしたことはなかった。
 ツキンツキンと痛む胸を押えて、小さく息を吐く。確実に痛みが長くなっている。まだ今は耐えられるが、耐えられなくなってきたらリアムに相談してみようか。リアムの城に着いたら。

「フィー、もう大丈夫か?」
「ん…大丈夫」

 しばらくしてようやく痛みが引いてきた。僕はゆっくりと顔を上げてリアムに微笑む。
 リアムが愛おしそうに笑って、僕の瞼にキスをする。

「腫れたな」
「変な顔してる…から見ないで」
「変じゃない。可愛い」
「僕よりきれいなリアムに言われても…」
「ふむ、イヴァル帝国の城にいる者達の目がおかしいと思っていたが、おまえもか?フィーが一番きれいじゃないか」
「…ほんと?」
「本当だ。だから俺は、おまえを誰にも見せたくない。誰もがおまえに目を奪われるからな」
「えー…」

 僕は街の中をリアムと並んで歩いていた時のことを思い返す。
 僕達はフードを深く被っていた。それでもすれ違う人々はこちらを見てきた。主にリアムの方を。フードで顔が半分隠れていたとしても、リアムは人を惹きつけるオーラがあるから。
 一方、小さくて貧相な僕を見る人はいない。いるとしたらリアムの隣にいたからだ。ついでに見てきただけだ。
 なのにリアムはいつもきれいだ可愛いと褒めてくれる。そのおかげで全く無かった自信というものが、僕の中に芽生え始めている。

「誰にもきれいと思われなくてもいいけど、リアムがそう思ってくれているなら…嬉しい」
「そうだな。俺もフィーが世界一かっこいいと思ってくれたならそれでいい」
「ふふっ、もちろん思ってるよ」
「おまえは本当に可愛いな。さて滝も見たし俺の城に帰ろう。婚儀を挙げて正式に俺の妻になったら、またゆっくりと旅に来よう」
「うん」

 僕が大きく頷くと、リアムが僕を抱き上げた。そしてそのまま山を降り始める。
 驚いて歩くと言うけど「下りの方が滑りやすくて危険だ」と離してくれない。
 リアムは意外と頑固だ。こうなったら譲らない。
 だから僕は諦めて、大人しくリアムの肩に頭を乗せた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...