銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 涙に濡れた僕の顔を見て、リアムが愛おしそうに目を細める。

「ごめん、俺もフィーに辛い想いをさせたよな…。フィーと出会って、一目惚れをしたのは本当だ。フィーが男だとわかって勝手に裏切られた気になっていた。腹が立った。だが腹が立っていたのは、男だとわかってもフィーのことばかり考えてしまう自分の気持ちを誤魔化すためだった。怒っていないとフィーが好きだという気持ちが溢れてしまいそうで戸惑っていた。俺は本当に馬鹿だ。凝り固まった考え方で自分の気持ちを認めようとしなかった」
「うん…」
 
 リアムが大きな手で僕の濡れた頬を拭う。

「でも無理だったよ。フィーを愛しいと想う気持ちが大きくて、誤魔化すなんてできなかった。だからフィーと離れたくなくて追いかけたんだ。…でも俺から逃げたフィーは、俺のことを嫌いかもしれない。そう思うと素直になれなかった」
「うん…」
「フィー、改めて言う。俺はフィーを愛している。俺の妻になって欲しいという気持ちは変わらない」
「うん…え?妻?僕は男だよ…」
「知ってる」

 リアムが太陽のように眩しい笑顔で頷く。
 僕はあまりの眩しさに、逞しい胸に顔を伏せて隠れた。

「あの…バイロン国では、男を妻にできるの?」
「できる。というか俺が法を変えてやる」
「ええ?リアムって本当にすごい自信家だね…」
「まあな。どうだフィー、俺に惚れたか?」

 僕は視線だけを上げて、リアムの灰色のマントを握りしめる。

「あの…僕、人を好きになるということがわからないんだ。だから…もう少し待って?リアムの傍は心地いいし一緒にいたいと思ってる。でもそれがどういう気持ちからなのかわからない…から、もう少し待って…お願い」
「うっ…その顔はずるいだろ…。わかった。フィーが俺を好きになるまで、いつまでも待つ」
「ありがとう。本当に感謝してる。僕はリアムに出会えたことが、生きてきた中で一番の幸せだよ」
「……」

 見上げた先のリアムの耳が、みるみる赤く染まっていく。
 僕は驚いて膝立ちをすると、両手でリアムの耳に触れた。

「なっ、なんだっ!」
「リアム、熱が出てきてない?耳が熱いよ?」
「ばか…それはおまえが…」
「え?なに?大丈夫?」
「ちょっ…やめっ」

 僕は額を出して、リアムの額に当てる。でも思ったよりも冷たくて、小さく首を傾けた。

「あれ?冷たいね…」
「おまえ…距離感がおかしいだろうが」
「だってラズールが、よくこうして熱があるか見てくれたよ?」
「…ラズールって、誰?」

 いきなり不機嫌な顔になったリアムが、僕の肩を掴んで低い声を出す。
 思いの外強く掴まれたために、魔物に傷つけられた箇所が痛んで、つい声が出た。

「あ、いたっ」
「悪いっ」

 僕の声を聞いてリアムが慌てて手を離す。そして僕の両手を握りしめながら、今度はとても優しい声を出した。

「ごめん…フィー。フィーの口から知らない奴の名が出て腹が立った。ごめん」
「どうして腹が立つの?ラズールは僕の世話をしてくれた人だよ。今は姉上の側近になってるらしいけど…」
「は?フィーがいなくなった途端に仕える主を変えたのか?」

 リアムが険しい顔で言い放つ。
 僕の胸がズキンと痛む。
 ラズールは十六年間ずっと僕の傍にいたんだ。簡単にはラズールがいなくなった寂しさは癒えない。
 黙って俯いてしまった僕の頭を、リアムが大きな手で優しく撫でた。
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