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またリアムとの旅が始まった。もう僕に甘い言葉を言わなくなったけど相変わらず優しい。僕が続けて肩と腹を怪我したせいもあって気遣ってくれている。
僕は申し訳なさから先にトルーキル国に行ったらどうかと話した。だけどリアムは「フィーのしたいことを優先させる」とはっきり言ったのだ。
リアムの中に僕を妻にするという想いは無くなったけど、友達だと思ってくれてるのかもしれない。
「そうだと嬉しいな…」
「ん?なにか言ったか?」
「ううん」
並んで馬に乗る僕の呟きを耳にしたリアムが、不思議そうな顔をする。
僕は小さく首を振って、つい先程ノアと別れた道を振り返った。
「ノア、一人で大丈夫かな」
「大丈夫だろう。自慢じゃないがバイロンは治安がいい。まあ女の一人旅は勧めないが」
「どうして?」
「治安がいいとはいえ、やはり夜は危険だ。魔物が出るし少数だが賊もいる。特にフィー、おまえは見目が良いから野宿など決してするなよ」
リアムの言葉に顔を前に戻し、苦笑しながら目を逸らす。
途端に「フィー」と厳しい声が聞こえ、僕の右手が握られた。
「もしや…野宿をしたのか?」
身体が触れ合うほどに馬を寄せたリアムの顔を、僕は恐る恐る見上げる。
リアムの端正な顔の中心に皺ができている。
「…しようとしたけど、ノアが声をかけてくれて…ノアの家に泊めてもらった」
「そうか。あの少年、口うるさかったが良い奴だな。後日褒美を届けさせよう」
「うん、ノアとリコは本当に優しい姉弟なんだ。僕からもお願いします」
「フィー」
「ん?」
リアムが僕の手を持ち上げ指先にキスをする。
僕は慌てて手を引いて少しだけ距離を取る。
まずい。心臓がうるさくて顔が熱いよ…。
「だめだよリアム。今までの癖でこんなことしちゃうんだろうけど…。僕は男なんだから気をつけないと」
「…そうだな」
ちらりと横目で見たリアムの顔が苦しそうだ。
苦しいのは僕の方。なのにどうしてリアムがそんな顔するの。ずるいよ…。
僕は俯いて小さく息を吐いた。しばらくしてリアムがまた話し出す。
「なあフィー、そろそろ聞いてもいいか。俺はフィーが善人だとわかっている。そして可愛くて優しいと知っている。なのになぜ、追われている?」
「……」
僕は黙り込んだ。
全てを話してもいいかな。呪われた僕のことを気味悪がらないかな。…いや大丈夫。リアムはきっと僕をそんな風に見ない。
僕はロロの向きを変えて、道から少し外れた場所に立つ大きな木に向かった。そして馬を降りて木陰に腰を下ろした。
リアムも後をついてきて、同じように馬を降りて隣に座る。
僕はしばらく風になびく草花を眺めていたけど、深呼吸をしてリアムに顔を向け口を開いた。
「…僕は、イヴァル帝国の王の子供。双子の片割れの王子だ」
リアムの目が見開かれ息を飲む音がした。
僕は申し訳なさから先にトルーキル国に行ったらどうかと話した。だけどリアムは「フィーのしたいことを優先させる」とはっきり言ったのだ。
リアムの中に僕を妻にするという想いは無くなったけど、友達だと思ってくれてるのかもしれない。
「そうだと嬉しいな…」
「ん?なにか言ったか?」
「ううん」
並んで馬に乗る僕の呟きを耳にしたリアムが、不思議そうな顔をする。
僕は小さく首を振って、つい先程ノアと別れた道を振り返った。
「ノア、一人で大丈夫かな」
「大丈夫だろう。自慢じゃないがバイロンは治安がいい。まあ女の一人旅は勧めないが」
「どうして?」
「治安がいいとはいえ、やはり夜は危険だ。魔物が出るし少数だが賊もいる。特にフィー、おまえは見目が良いから野宿など決してするなよ」
リアムの言葉に顔を前に戻し、苦笑しながら目を逸らす。
途端に「フィー」と厳しい声が聞こえ、僕の右手が握られた。
「もしや…野宿をしたのか?」
身体が触れ合うほどに馬を寄せたリアムの顔を、僕は恐る恐る見上げる。
リアムの端正な顔の中心に皺ができている。
「…しようとしたけど、ノアが声をかけてくれて…ノアの家に泊めてもらった」
「そうか。あの少年、口うるさかったが良い奴だな。後日褒美を届けさせよう」
「うん、ノアとリコは本当に優しい姉弟なんだ。僕からもお願いします」
「フィー」
「ん?」
リアムが僕の手を持ち上げ指先にキスをする。
僕は慌てて手を引いて少しだけ距離を取る。
まずい。心臓がうるさくて顔が熱いよ…。
「だめだよリアム。今までの癖でこんなことしちゃうんだろうけど…。僕は男なんだから気をつけないと」
「…そうだな」
ちらりと横目で見たリアムの顔が苦しそうだ。
苦しいのは僕の方。なのにどうしてリアムがそんな顔するの。ずるいよ…。
僕は俯いて小さく息を吐いた。しばらくしてリアムがまた話し出す。
「なあフィー、そろそろ聞いてもいいか。俺はフィーが善人だとわかっている。そして可愛くて優しいと知っている。なのになぜ、追われている?」
「……」
僕は黙り込んだ。
全てを話してもいいかな。呪われた僕のことを気味悪がらないかな。…いや大丈夫。リアムはきっと僕をそんな風に見ない。
僕はロロの向きを変えて、道から少し外れた場所に立つ大きな木に向かった。そして馬を降りて木陰に腰を下ろした。
リアムも後をついてきて、同じように馬を降りて隣に座る。
僕はしばらく風になびく草花を眺めていたけど、深呼吸をしてリアムに顔を向け口を開いた。
「…僕は、イヴァル帝国の王の子供。双子の片割れの王子だ」
リアムの目が見開かれ息を飲む音がした。
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