銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「ゆっくりでいいので話してください。俺には何でも話してください」

 ラズールが僕を抱き上げて膝に乗せ、涙が流れる頬に唇を寄せる。ラズールの唇が温かくてこそばゆくて、僕は少しだけ首をすくめた。そしてラズールの目を見つめてゆっくりと話し出した。

「…僕は、自分の立場をわかってる…。姉上の身代わりを立派にやらなきゃいけないってわかってる。病弱の姉上が、早く元気になって欲しいって…心から願ってる。…でも、姉上が元気になったら僕は秘密保持のために殺される。この国の王女が実は双子で、もう一人は男で、しかもその男が王女の振りをしていたなんて絶対に知られる訳にはいかないから…。そういうことを全て、ちゃんと理解してる。でもね…時々どうしようもなく辛くなる時があるんだ。僕は…何のために生まれてきたのかなって。価値のない僕は、生まれて来なくてもよかったんじゃないかなって。…ふふ、ラズールがあまりにも優しいから、ちょっと気が緩んじゃった…」

 笑った拍子に目尻からまた涙が零れた。
 その涙をラズールがまた唇を寄せて吸い、耳元で「フィル様…」と優しい声を出す。
「うん…」と鼻声で返事をした僕をそっと抱きしめて、ラズールが優しい声で続ける。

「俺が傍にいます。これからもずっと。もしも王女様が元気になられてあなたの役目が終わったら、俺があなたをこの城から連れ出します。追手が来ても、どこまでも一緒に逃げます」
「えっ?そんなことしたらラズールまで殺されちゃう…」
「あなたのためなら構いませんよ。でも殺されません。あなたと二人で、どこかでのんびり暮らしたいから」
「ラっ、ラズールぅ…!いいの?僕のこと、邪魔じゃない?」
「ふっ、なんてことを仰るのですか。あなたを大切だと思いこそすれ、邪魔だなどと露とも思いませんよ」
「うっうっ…、ありがとう…」
「ほら、もう大丈夫ですから泣き止んでください。あなたが泣くと俺まで辛くなります」
「うんっ…、でも止まんない…っ」
「困った方だ…」

 僕はラズールにしがみついて、いつまでも泣き続けた。そのうち泣き疲れて、気がついた時には僕の部屋のベッドの上だった。


 この日以来、僕とラズールの絆は更に強くなった。
 だけど王が、このことに気づいていない訳はなかったんだ。




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