銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 僕と姉上は五歳になった。
 姉上のフェリは、まだ病弱なままだ。城の奥深くの部屋で養生しながら大切に育てられている。王も頻繁に姉上の所へ通っている。
 でも僕の所には会いに来ない。だって僕はいらない子だから。姉上の身代わりとして生かせてもらってるだけだから。

 そんな僕の傍には、いつもラズールがいた。
 身の回りの世話をしてくれる女の使用人もいるけど、彼女達の前では僕は王女フェリとして振る舞わなければならない。
 でもラズールは本当の僕を知っているから、ラズールの傍にいる時だけは肩の力が抜けてとても安心していられた。

 跡継ぎの王女として表に立つ僕は、幼い頃から頻繁に命を狙われた。でも大丈夫だ。僕に害を成す前にラズールがほとんど防いでくれたから。
 でも全てを防ぎきれるものではない。
 そのため僕は何度か命を落としかけることになる。


 ある日、ラズールが王の付き添いで城を離れていた時に、本来なら絶対に僕の前に出されることの無い毒の入った食事を口にしてしまった。

「どんなに安全だと言われても、口にする物にはよく注意を払ってください」

 そうラズールに散々言われていたから、その時も注意はしていた。だから、ほんの少ししか口にしなかった。口に入った瞬間、異変に気づいてすぐに吐き出した。
 それでも僕は、五日間高熱を出して苦しんだ。
 僕が倒れた直後に戻って来たラズールが、薬を飲ませ付きっきりで看病をしてくれた甲斐があって回復をしたけど。
 五日ぶりに目を開けた僕を見て、心底安堵したラズールの顔を僕は忘れない。

 僕が回復したと聞いて、王が一度だけ会いに来た。

「毒を口にするなどと情けない。おまえには、まだこの先フェリの代わりを務めてもらわなければならないのだから、よく気をつけるように」
「…はい」

 王は扇子で口元を隠したまま苦々しげにそう言うと、僕を一瞥して出て行った。
 母親である王に愛情を受けたことなど一度も無い。だから今更なんとも思わない。
 だけどラズールの優しい腕に抱きしめられた瞬間、僕の目と鼻の奥が痛くなって涙が溢れた。

「フィル様…あなたには俺がいる。俺は決してあなたの傍を離れない。だから大丈夫ですよ…」
「ラズールっ、ラズール…」

 声を上げて泣く僕の身体を、ラズールが更に強く抱きしめる。
 僕よりも八つ年上のラズールの胸は、とても暖かくて大きかった。


 僕は王女の身代わりとして、勉強も剣術も完璧に身につけなければならなかった。
 しかしそれは難しいことではなかった。
 賢王と名高い王の血を引くせいか、僕は勉強も剣術も容易くできた。歳の近い臣下の子供達の中でも飛び抜けて優れていた。
 そして高位の者が使える魔法の力も強かった。
 ああ…でも一人だけ、僕とそんなに差がない優秀な子供がいた。
 この国で王に次ぐ高位の大臣の息子、トラビスだ。
 他の子供たちは僕に一目置いていた。だけど一つ歳上のトラビスは、ことある毎に僕と張り合った。
 表向き僕は女の子だ。でもそんなことはトラビスにとって関係ないらしい。というか寧ろ、女の子である僕に負けることが許せなかったんだろう。


 十歳になったある日、トラビスにしつこく詰め寄られて剣の対戦をしたことがある。
 トラビスの方が身体が大きく力が強かったが、僕は柔軟な動きで彼の剣をするりと躱して、剣の柄でトラビスの肩を打った。
 剣を落として肩を押さえ、僕を睨んできたトラビスの顔を僕は忘れない。
 きっとこの日からトラビスの中で、僕に対する憎悪が募っていったんだろう。
 この先ずっと、僕は彼に狙われることになる。



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