たゆたう青炎

明樹

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「ルカ、おまえに任せる。昼間のように二人を戦わせてもいいぞ」


後ろから声をかけるトウヤさんにチラリと目をやって、ソファーに座る父さんを見た。


「…父さん。父さんの想いを聞かせてくれてありがとう…。僕は、父さんと母さんの子供で本当によかったよ。僕は大丈夫だから、ルキを大切に、守ってあげてください。そして、ここにいる皆さん…、いや、人狼界全ての人に聞いて欲しい」
「なんだ、戦わせないのか」


トウヤさんの落胆した声を無視して、話し続ける。


「これからの人狼界は、今まで通り、四大名家が引っ張っていって。そして黒条家の復興を許して欲しい」
「はっ?何を言ってる!復興などという緩いものなど望んでいないっ。我が黒条家の望みは、再び人狼界の頂点に立つことだ…っ!」


怒鳴り声と共に、僕の肩に激痛が走る。
トウヤさんに強く掴まれて、肩から鈍い音が聞こえた。


「…つっ!う…」
「ルカ様っ」


痛みに耐える僕の身体を、懐かしい腕が強く抱きしめる。ぎりぎりと歯ぎしりをしながら、ロウが低く呻いた。


「おまえ…これ以上ルカ様に触れるな…。ルカ様…、何をしようと考えているのです?俺には、あなたの心がわかる…。もう無茶はしないで欲しい。もう二度と、俺の前から消えないでくれ!」
「ロウ…ごめんね。知らなかったとはいえ、ロウに力を使ってしまって…。許してくれる?」
「当たり前だ。俺が、あなたに好き以外の感情を持つことなど無い」
「そう…ありがとう…」


僕は目を閉じて、ロウの背中に腕を回して、めいっぱい匂いを吸い込んだ。そして、ロウの胸を押して身体を離し、深く息を吸い込むと、大きな声を出した。


「人狼界の全ての者は、この先永遠に、皆で手を取り合って仲良くして欲しい。そして、全ての人狼を操る能力を持つという人狼を、狼に変身出来ない僕という存在を、永遠に記憶から消し去れっ!」
「何を言って…っ!」
「…ロウ、僕はロウのこと、ずっと忘れないよ…」


僕に向かって手を伸ばしたロウの身体が、ゆっくりと床に崩れ落ちる。
グルリと首を巡らすと、この部屋にいる全員が、床やソファーに横たわって眠っているようだった。


「…な、ぜ…、せっかく、の…力を…」


トウヤさんが、僕に手を伸ばして必死に問う。


「僕はもう、僕のことを要らない存在だとは思わないけど、この力は、この世界に要らないものだと思う。トウヤさん、あなたはとても素晴らしい当主です。こんな力に頼らなくても、いずれ、黒条の名を人狼界に広められる。僕とあなたは、取引の為に一緒にいたけど、僕はあなたのことを結構好きでしたよ…」


僕の言葉を最後まで聞くことなく、トウヤさんから静かな寝息が聞こえてきた。


次に目覚めた時には、皆は、僕がこの世界にいたことを忘れている。いや、最初から存在などしていないだろう。
寂しくはあるけれど、これが僕に出来る最大限のこと。
僕は、父さんに近づいて、その大きな身体をそっと抱きしめた。目を閉じると、脳裏に懐かしい言葉が蘇る。


『ルカ、母さんに似た優しい男になれよ』
『ルカ…あなたを一途に想ってくれる人が現れて、きっと大切にしてくれるわ』


「父さん、母さん、ありがとう…」


父さんの胸の中で囁いて、名残惜しく離れた。
次に床で眠るロウの傍に跪き、少しやつれた頬に唇を押し当てる。


「ロウ、愛してる」


耳元で囁くと、ゆっくりと立ち上がって足を一歩踏み出した。だけどそれ以上、前に進めない。僕の身体が震えて、止めどなく涙が溢れて、掠れた声を絞り出した。


「…な、んで…」
「…俺を、見くびるな…。どれほど…あなた、を…愛してる、と…思って、る…。誓った…だろ…。決して、離れ…ない、と…」
「ロウ…っ」


背後からロウが僕を抱きしめていた。
僕は身体を反転させて、ロウに強くしがみつく。


「ぼ、僕のことっ、忘れてないの?忘れるように命令したのに…っ」
「そんな、命令…、聞けるわけがない…。あなたを忘れると、いうことは…、俺に、死ねと言ってるのと、同じ…」
「じ、じゃあ、僕から離れないでっ。僕の傍に…っ、一緒にいて…っ!」
「離れない。離すものかっ…」


まだ身体に力が戻りきらないロウが、今あるありったけの力で僕を強く抱きしめる。


僕は、涙でグシャグシャの顔を上げてロウを見た。
ロウも、泣き笑いの情けない顔で僕を見る。
二つの青い瞳が絡まって、どちらからともなく顔を近付けて、とても優しいキスをした。





……end.
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