たゆたう青炎

明樹

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俺とルカ様が住んでいた小さな家と、赤築の邸とのちょうど真ん中くらいに、赤築家が経営する病院があった。
学校への行き帰りに前を通っていたから、あることは知っていたが入ったことはない。


 俺と赤築姉弟は、病院の正面玄関ではなく、裏側の特別な出入口から中に入った。
人狼族が経営しているとはいえ、何ら普通の病院と変わらない。大半の医師と看護師、職員は、人間だそうだ。ほんのひと握りだけ、人狼の医師や職員がいる。彼らは、主に人狼を専門に治療するのだ。


人気のない廊下を進み、エレベーターに乗って五階に上がる。エレベーターが着いてドアが開くと、目の前に、白衣を着た初老の人狼が立っていた。


「マイ様、リツ様、連絡を受けてお待ちしておりました。こちらです」


その初老の医師は、赤築姉弟に頭を下げて、俺をチラリと見る。だが何も言わずに前を向いて、案内するように歩き出した。


医師が、エレベーターから一番近い部屋のドアをノックすると、中から「入れ」と低い声がした。


「失礼します」


声をかけると同時に、医師がドアを開ける。大きな窓から差し込む光で明るい室内に入ると、窓の傍の大きなベッドに、ルイ様よりも少し年上の男性が、枕を背中に当てて座っていた。



「お父様」


赤築先生の声に、彼がゆっくりとこちらを向く。
呑気で頼りない赤築リツの父親とは思えない鋭い眼光。
彼のパジャマの襟から包帯が見え、顔にも大きなガーゼが貼られている。


「なんだ、おまえ達…来たのか」
「そりゃあ、来るだろっ。だって最強に強いおやじが怪我したんだぜ。しかも、白蘭の当主とやり合ったって?」
「ああ…、わしもなぜあんなことになったのか、よくわからん…。そこの…青蓮の人狼だな。おまえと同じ、青い目の人狼がわしと白蘭の傍に来て…、『二人で戦え』と言ったのだ。その瞬間、身体中に電気が流れたように痺れた。そして、わしの意思とは関係なく狼に変身して、白蘭を攻撃していた。…たしか、リツと同じ学校の青蓮の子がいなくなったという話だったな。その子に稀有な能力があるという噂も聞いた。わしと白蘭は、どうやらその能力を使われたようだ」
「……」


俺は、返答に迷って無言で俯く。そんな俺の代わりに、赤築が早口でまくし立てた。


「たっ、確かにルカは、そんな力を持ってるみたいだっ。だけど、今は黒条に連れて行かれて、いいように利用されてるんだっ。ルカは、ルカは…すごく優しいんだよ。酷いことをした俺を、それでも友達だと言って笑って許してくれたんだ…。そんなルカが、理由もなく人を傷つけることなんてしない。きっと黒条のあいつに何かされてるんだっ」
「わかったから落ち着け。別に責めてる訳ではない。ただ驚いただけだ。あんな力は初めて見るからな。わしも白蘭も、お互いに戦意などなかった。頭の中ではダメだとわかってるのに、身体が勝手に動いてしまった。なんともすごい人狼がいたものだよ。ところでリツ、さっきおまえが言った黒条とはなんだ?」
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