たゆたう青炎

明樹

文字の大きさ
上 下
27 / 95

3

しおりを挟む
険しい表情で口を開きかけたロウを、僕は睨んで制した。


「ロウは口を挟まないで。少し向こうに行っててよ。リツ、リツのお腹の傷よりも、僕の打撲の方が早く治るよ。だから気にすることない。それよりも、早く帰ってリツもゆっくり休んだ方がいいんじゃないの?結構な傷だったでしょ?無理したらダメだよ」


リツは、赤い瞳を潤ませて、僕の手を強く握り返してきた。


「わかった。本当はずっとルカの傍にいたいけど、今日は帰って休む。早く傷も治す。んで、もし俺よりもルカの方が治りが遅かったら、俺が舐めて治してもいい?」
「嫌だよ…。それに、打撲は舐めても治らないだろ?昨夜ロウが舐めたけど、ちっとも良くなってない…」


リツが、バッと勢いよくロウに顔を向けて、苦しそうな声を絞り出した。


「先生…あんたはどういう気持ちで、ルカの傷に…舌を這わせてるんだ…?」
「どういう?おまえに教えてやる義理はない。まあ強いて言えば、俺は、ルカ様が生まれた瞬間から傍にいる。俺とおまえでは、想いの強さが天と地ほども差がある。比べるのもバカバカしいが。それと、おまえは二度もルカ様に傷を負わせたのだ。そのことを決して忘れるな」
「わかってる…っ」


僕の手を握るリツの手が、プルプルと震えている。それに、ものすごい力を込められて、僕は痛みに顔を歪めた。


「リツ、僕はほんとに大丈夫だから、もう帰って。それに手が痛いから離して…」
「あっ!ごっ、ごめん…っ。…じゃあ…俺、帰るな。来週は来る?」
「うん、週明けには行くよ。またね、月曜に」
「わかった。待ってるな?」


リツは、僕の手をそっと離してロウにお辞儀をした。そして鞄を持って、肩を落としてリビングを出て行く。その寂しそうな後ろ姿に、僕は思わず足を踏み出そうとした。
その瞬間、ロウに背中から抱きすくめられてしまう。身動きが出来なくなった僕は、身体に回された腕に触れて小さく言った。


「ロウ…、何するの?離してよ…」
「嫌です。離すと、あなたはあいつを追いかけるのでしょう?そんなことは許さない」
「なんでロウが許さないの?僕が何しようと僕の勝手じゃない。ねぇ、離してよ」
「嫌だと言ってる。ルカ様、俺はどんなことがあろうとも、あなたの傍にいると誓った。だからあなたも、俺から離れないでくれ…」
「僕がどこに行くというの…」


ロウが僕の首筋に顔を埋めて、まるで駄々をこねる子供のように我が儘を言う。そんな珍しいロウの様子に戸惑っている間に、玄関ドアの閉まる音がして、リツがこの家を出て行った。
それなのにロウは、僕を抱きしめたまま離さない。
僕は、ロウの体温と匂いが好きだから、このままでいたとしても一向に構わない。
だけど、まだ熱が下がっていない僕の身体は、だんだんと呼吸が速くなって視界が揺れ、立っていられなくなった。ぐったりと力の抜けた僕を、ロウが軽々と抱き上げて額にキスをする。


「やはり、まだ動くには早過ぎましたね。今日はもう、大人しく寝てるのですよ」


すぐ間近にある深い青の瞳を見つめて、僕は素直に頷く。その目を細めて、ロウがもう一度、僕の額にキスをした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...